2007年12月12日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
~「未」を食べる~
大いなる羊は美しいが
ヒツジはそういう問題をもたらさなかった。テリトリーを守る習性を持たず、どこにでも移動できる。リーダーを中心にした社会構造を持つので、牧者がリーダーになればよい。人間をリーダーと信じこむように幼獣をとらえて飼えば、刷り込みによって、後は思うままである。
アジアムフロンという野生羊を馴化し、家畜へヒツジが作出されたのは西アジアである。紀元前8千~7千年の間に、初期の牧畜民はかなり急速に西方のヨーロッパへ、そして北東アジアへ広がっていった。
羊毛は人間が作った
ヒツジは肉のみならず繊維も供給する。被服素材がなければ北方民族は生きていけない。現在ではヒツジは毛用のほうが重要な用途である。ヒツジには元来、剛毛ケンプと柔い下毛ウールが明瞭に区別できたが、家畜化は剛毛を細く短いヘアーに変えた。紀元前5世紀頃からは、羊毛(フリース。剛毛がなく下毛だけの毛)になった品種が作られた。紀元前1世紀頃から白色羊毛品種ができ、更に毛に改良が加えられていく。
肉や毛皮の利用は一度に限られ、生産量の増加は個体数の増大によってしかもたらされない。しかも哺乳類は成獣に達してからは成長が止まるため、生かしておいてもいわばムダ飯食いになる。特にオスはそうである。再生産も若いメスによるほうが効率的(若いメスのほうがよく子を産む)なので、オスもメスも若いうちに屠殺することになる。
ところが、羊毛は個体数をそのままに生産性を向上させるので、特にメスならば、何年も飼育してもかまわなくなる。かくして乳利用への途が拓かれていく。
いかにしてミルクは使われたか
畜乳の利用を現代の我々は当然と思っているから、はじめからそのために搾乳したと考えやすい。しかしそれにはハードルが高く、2次的に利用が開始されたとみなすほうが自然である。
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第5回 | ~「未」を食べる~ 大いなる羊は美しいが (2007年12月12日) |
第4回 | ~「巳」を食べる~ 天高く蛇肥ゆる秋 (2007年11月28日) |
第3回 | ~「子」を食べる~ ネズミ食うべし (2007年11月14日) |
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千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。
動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。