千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年12月12日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「未」を食べる~
大いなる羊は美しいが

辺境から中央舞台へ

  「羊」という字は両角を備えたヒツジを正面から象っている。鴛鴦(オシドリ)の如く、雌雄の2字を合わせた動物名が中国には多いが、本来のヒツジには雌にも角があり、見かけの差が少ないせいか、性による別がない。大変に賞味されていることは、「美」という字でもわかる。「美」は大きいヒツジを意味する。日本でいう米国は中国では「美国」と表記するが、アメイリカの音をとったものであり、「メイ」という発音からして美はヒツジと関係していよう。

 羊肉食は評価も高く、一般的にはなったが、中国主要部にいた農耕民の漢族には、元来ヒツジは無縁で、肉といえば豚肉をさすのである。全羊席という、ヒツジを丸ごと全て料理して供する宴席があるが、これはもともと女真族の伝統料理である。ツングース系の女真族は現在の中国東北部からアムール地方にかけて拡がる、狩猟・牧畜部族であった。

 そもそもヒツジは中国では西方辺境の家畜で、その地域住民を「羌(きょう)人」と呼んだほどである。羌は羊と人の合成字で、牧羊民であることを示す。

ヒツジは家畜になれた

野生羊の一種 ドールシープ
野生羊の一種 ドールシープ

 野生羊は、反芻胃を持ち、植生の乏しい乾燥地にも生息できる抵抗力の強い動物である。一方、そういうやせた地域に住む人間のほうは農耕ができない。まずは狩猟によって食料を調達している。古代の狩猟民が有蹄獣の群れを追っていたのは確実である。野生の群れを密集集団にして保有していれば、食肉の供給に便利だったろう。

 やがてこの習慣は特定種の管理へと進んでいき、牧畜となる。そのとき、群居しない種は家畜化するに不向きである。また順位制がなくて、テリトリーを守る、つまり特定の地域に固執する習性も不向きである。さらに気質が臆病でショック死するような種も向かない。捕食者から駿足で逃げ去る種もいけない。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。