千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年11月28日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「巳」を食べる~
天高く蛇肥ゆる秋

 そういう特性に支えられて、ヘビは数も多い。むしろ人間のような捕食者との出会いは避ける遁世的な暮らしをしているにもかかわらず、よく見かけられる。自生種、つまり大昔からのその場所に本来棲んでいるタイプの野生動物として、ヘビはウサギやリス、あるいはニホンキジなんかよりも、ずっと見かけることが多く、人間とよく接触していることは間違いない。人間とヘビは大昔から共存してきたのだ。

へビ食は当然

 ヘビを食べるというとかなり特殊なことのように思えるが、太古にはどの地域でも普遍的に食べていたようだ。動物性蛋白質の資源としてヘビをとらえてみよう。

 ヘビはどこにでもたくさんいるし、結構食べ応えがある。平均的サイズのヘビは1食にちょうどよいぐらいではなかろうか。魚を捕らえるには網やモリ、釣り針といった道具が必要、ウサギにも罠や石、棒くらいは必要、というように捕獲のための道具が考えられていったとき、何も持たないヒトが、素手で捕らえられる最大の動物質、最大のご馳走はヘビではなかったろうか。ヘビは古代人の、食料としての友だったのだ。アジアでもヨーロッパでも、南北アメリカ、オーストラリアやアフリカと、世界各地の先住文化としてヘビ食は存在するし、今も食べられているのである。食料を狩猟に頼らなくなった地域では何も今更ヘビなんか食べなくとも、といった感覚、昔の暮らしを低いものとして見て忌避する傾向によって、ヘビ食は遠ざけられていったのであろう。

 現代日本人はヘビを嫌うのが通常である。通常だからといって正常でないのは虫歯と同じだ。これを当然の先天的な習性である、とみなしている人が多いのには驚く。ヘビ嫌いは文化であって、遺伝はしない。遺伝ならごく短期間の変化は考えられないからである。例えば、ヘビを飼いたい愛好家の割合は、ここ10~20年で高くなっているはずだ。経時的なデータがとれなくとも、年代別の統計をとれば明らかになろう。遺伝ではなく、文化であるから時空的に変化するのだ。

 また、近隣地帯でもけっこう違うことがある。イギリス人は一般にヘビを嫌うが、「フランス人はヘビをわりに見慣れていて、平気である。私はむしろ好きですよ」という話をかなり昔にフランス人のフランソワーズ=モレシャンさんにうかがったことがある。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。