千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年11月14日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「子」を食べる~
ネズミ食うべし

白人とドブネズミ

 南極にまで広がった、人類のごときたくましさを見せつけるドブネズミは、原産地はどこか不明で、全世界を制覇した。ペストをばら撒いたヨーロッパは外来の地で、この種に名前を与えた分類学の始祖リンネの住むスウェーデンには、ノルウェーから侵入した。そのことは学名Rattus norvegicusに表現されている――ノルウェーのネズミであると。

 船で移動することからshipratという英名も持つドブネズミは、新天地ニュージーランドでイギリス人のようにふるまった。その悲しい歴史を見てみよう。

 ニュージーランドの先住民マオリは、自分たちとその生態系との間には密接な関係があるのを知っていた。マオリの野生の食料への依存度は高かった。マオリネズミ(ナンヨウネズミ)はマオリ人がニュージーランドに来たときからいて、祭りの日のご馳走になっていた。マオリ人は自らをこのネズミに同一視していた。

 そして1830年頃、イギリス人たちがドブネズミを北島のノースランドに持ち込む。マオリ人たちは原生のネズミより大きく攻撃的なこの種を食用に不適とする。2年以内にドブネズミはノースランドのほとんどの場所に拡がり、マオリネズミを滅ぼしていく。同属で生活の仕方が同じなため、まともに競合したのだろう。さらに10年、侵入者は北島全域から先住者をほぼ全滅させ、場所を乗っ取る。マオリ人に腹を立てたパケハ(白人)は、「新来のネズミが古いネズミを追い払ったように、われわれ白人はお前らを追い払うぞ」などの悪口を言ったという。

 ドブネズミは南島にも入って大繁栄し、反比例してマオリネズミは消える。1860年代にはサザンアルプス山脈もドブネズミの支配下になる。1858年、ニュージーランドを訪れた地質学者ハーストがダーウィンにあてた手紙で、マオリのことわざを紹介している――「白人のネズミが土地のネズミを追い払ってしまったように、クローバーがわれわれのシダを殺したように、マオリは白人の前に消えていく」と。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。