千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年11月14日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「子」を食べる~
ネズミ食うべし

 ネズミはヘビ・肉食獣【例えばヤマネコ類の大半の種の大半の食餌はネズミである】・猛鳥【ワシ、タカ、フクロウからカラスを含んで】などのあらゆる捕食動物の良いエサとなっている。ただし、夜行性のネズミは、昼行性の捕食者にはあまり効率よく狩られていないようだ。実験的にはネズミを非常によく食べるオオトカゲを、ネズミ駆除のために導入したところ、効果が上がらなかった実例がある。オオトカゲは太陽の下で活動し、自然状態ではあまりネズミと出会わないからであった。

 その捕食者の一員として人間が働くこと、つまりネズミを食べること、は推奨される。海の生産のことを考えてみよう。日本人が好み、かつ世界の水揚げの大半を消費しているマグロは、基本的に高価でかつ価格が上昇しつつある。需要に供給が追いつかず、マグロ自体が減少しつつあり、絶滅の惧れもある。養殖されているが、飼料代が嵩むので安くはならない。マグロは高次消費者であり、イワシなどの小魚を食べているからだ。エネルギーの変換過程が一つ増えれば、それだけロスも増す。マグロは生態学的にも元来が贅沢な食品なのである。イワシをそのまま食べるほうが資源ロスが少なく、地球を永持ちさせられるのだ。今日ではイワシも資源量が少なく、そう安くはないが、マグロよりは価格も下回る。陸のイワシであるネズミを食料として悪いことはない。

 ネズミの無根【いつまでも伸び続ける】の門歯は固い餌を齧るのに適応している。その固い餌とは、イネ科の種子であることが多い。そもそも種子には植物の構成成分の中で栄養が最も完全に含まれる。イネ科の種子を改良して主食となし、その貯蔵と集積によって富と権力を集中させてきた人類にとって、それを荒らすのが本性のネズミは、古くからの仇敵であろう。人類が直接的にそれを食料とするならば、禍転じて福と為す類だ。わざわざ穀物を与えて食肉を生産している人類にあるまじき矛盾であろう、ネズミを食べないことなど。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。