千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年11月14日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「子」を食べる~
ネズミ食うべし

 例えば、山中でスズメを見かけたら、近くに人家があると思ってよい。スズメはシナントロープだから。他に、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、コクゾウムシ、イエバエ、チカイエカ、ヒトノミ、ナンキンムシなどがシナントロープ。あまり好かれない種類が多いが、人にたかって利用している連中だからだろう。それらを捕食する天敵のニホンヤモリやアオダイショウもシナントロープだが、有益であるにもかかわらず、やはりあまり好まれていない。

画像
タイ・ランパンの食品市場で売られている「ネズミ」

 クマネズミとハツカネズミは属が違うが共にネズミ科ではある。ネズミ科が最もネズミらしいということになるが、この科は齧歯目の中でも最大の科で、約1500種を含む。そしてこの身近なネズミ科は食用になる。東南アジアなどの農耕をしている民族でも、副食などは野生の動植物を利用するのが普通である。農作業の合間に偶然ネズミが出現すれば食用として捕獲するし、わざわざ皆で畦(あぜ)とかに棲んでいるネズミを狙って獲ることもある。中国やベトナム、タイでは市場で生きたネズミが籠に入れられ売られているのを見た。

ネズミ食うべし

 ネズミには雑食のものもいるが、基本的には植物食であって、生態系の始まりの位置、底辺に近いところにいる。太陽のエネルギーが根源で、それを植物が自らの体に転換し、その植物を食べる、第一次の消費者なのだ。

 また、ネズミ算という言葉があるほど多産だが、釣り合って多死でもある。死亡要因の多くは被食で、高次の消費者のエネルギー源になっている。体が小さいこともあって、多数が肉食者の食物となっているのだ。そのため、成長も早い。小型短命というのは一般に多産多死の動物の特性で、このことは逆の少産少死の動物を考えてみればわかりやすい。ネズミと同じ哺乳類で、高次捕食者のトラを考えてみよう。虎の子という言葉があるほど子どもの数は少なく、かつ親が大事に保護する。保育努力のために高い割合で生き残るが、成熟には時間がかかり、身体はいうまでもなく大きい。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。