千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年11月14日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「子」を食べる~
ネズミ食うべし

 どんな動物をネズミとするか。ビーバーをネズミと呼ぶのは抵抗があろうし、逆にジャコウネズミやハネジネズミをネズミではない、といっても納得しきれない人が多かろう。感覚的な尺度では埒が明かないので、分類学的に齧歯目(げっしもく)というグループをネズミとする。これなら客観的だ。

 「目(もく)」というのは分類群の大きさを示す尺度ないし目盛りの一つで、例えばサルはすべて霊長目(れいちょうもく)だし、コウモリと翼手目(よくしゅもく)は同義である。

 いくつかの目を集めたその上の階級を「綱(こう)」という。今ここで例示したのはすべて、ケモノすなわち哺乳綱に属している。『本草綱目』という、明の李時珍が著した薬草学の体系的な書物があるが、その「綱目」が分類体系づけを表している。

 逆に、目の下には「科」がある。これは分類学の用語としては一般によく知られている。「○○という動物は何科に入るんですか?」という質問はよく口にされる。科はさらに「属」に分けられ、その下に「種」という基本単位がある。例えばライオンはネコ科だが、ネコ科にはイエネコが入るネコ属のほかに、ライオンやトラなどをまとめたヒョウ属などがある。これらの「綱目科属種」という階級を使えば、種類の間の類縁度が表せる。近い遠いを距離で表すようなものだ。

 ジャコウネズミは無盲腸目(むもうちょうもく)、ハネジネズミはハネジネズミ目なので、ネズミの名がついているがネズミではない。むしろリスやムササビ、ヤマネ、モルモットなどは齧歯目なので立派にネズミということになる。そしてこれらには、食にまつわる楽しい話がいろいろあるが、それらは別の回で書かせてもらいたい。

人類と共に繁栄するネズミ

 ネズミといって最初に頭に浮かぶのは、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミの家ネズミ御三家だろう。これは人間とともに世界中に外来化した、シナントロープ動物の筆頭でもある。シナントロープsynanthropeとは耳慣れぬ用語かもしれないが、分解すれば意味はたやすい。シンはシンフォニーsymphonyのシンと同じで「ともに、互いに」という意味。音響phonyが共に交わうから交響曲。anthropeは人類学anthropologyにあるように、人。「人と共に」という意味で、野生動植物の多くは人間によって悪影響を及ぼされ減少・絶滅していくのとは反対に、人間活動によってむしろ繁栄するのをシナントロープという。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。