千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年10月31日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「亥」を食べる~
亥年はブタ年が正しい?

 ベーコンを多く生産させるため、ブタは胴が長くされた。胸椎の数を見ると、イノシシでは14個だが、ブタでは14~18個にまで増やされている。猪首という言葉があるほど頸の短いイノシシも、頸の長いキリンも、頚椎の数は同じ7個であることを鑑みれば、椎骨数を変化させるというのがかなり大変なことだとわかるだろう。

 少ない飼料でよく肥えるようにするには、餌の栄養を徹底的に吸収させればよい。腸の長さを見ると、イノシシでは17mぐらいだが、ブタでは20~26mにもなり、ブタはイノシシよりもはるかに栄養の吸収がよいといえる。

ブタを飼う道

 このような変化のために、骨でも両者は区別可能になる。世界で最も古いブタの骨は、紀元前8000年頃の新石器時代の中国各地から見つかっている。ブタへの家畜化が中国で行なわれたのは確かだが、カスピ海沿岸地域やエジプトなどでも古代遺跡からブタの骨が発掘されており、世界各地で独立に家畜化が行なわれていたらしい。

 イノシシが容易に獲れるうちは家畜化が必要なかったが、人口が増加し、不安定な狩猟に依存してはいられなくなって、食料の安定確保のために、ブタへの家畜化がなされるようになった。肉が美味であり、滋養豊かであることもこの種を選ばせた理由だろう。

 ブタを飼育するためには、人間が定住し農耕文化が発展していることが重要である。土地の恵みが豊かで、その作用を充分利用できなければブタは養えないのだ。その条件を満たされなくなると、ブタは“タブー化”していくのである。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。