千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年10月31日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「亥」を食べる~
亥年はブタ年が正しい?

 ブタは、この狭い意味でのイノシシと動物学的には同じ種とされる。もともと種というのは自然界に存在する集団なので、人間による干渉が常に加えられる家畜を、自然の種と同様に扱うのは無理であろう。そこで動物分類学の用語ではない、“変種”という括りで、ブタは扱われるのがよいことになる。つまり、ブタは動物分類学上は存在せず、イノシシと同じということになる。実際、野生化したブタ、人間の手の庇護なしに自由に生き、何世代も経たノブタは、イノシシとほとんど区別できなくなる。例えば、オーストラリアのイノシシは、18世紀後半にヨーロッパから持ち込まれたブタが野生化したものである。

顔も体もブタ化する

イノシシとブタの頭蓋骨
[イノシシ(上)とブタ(下)の頭蓋骨]
“短頭化”現象は、飼育された動物に普遍的に生ずる。

 イノシシを家畜化したものがブタである、という当たり前のことが、両者の違いである。イノシシにある攻撃用の牙は短くされ、吻が短くなって鼻は上方にしゃくれた、これがブタである。この短頭化ないし短吻化は、飼育された動物には普遍的に生ずる現象で、「動物園ライオン」といった言葉があるほど、野生個体とは顔つきが違ってくるから、知識のある者なら簡単に区別がつく。ターザン映画のような猛獣(別に、他の野獣でもよいが)が出没する映画で、人間とのからみがあるようなら、吻の長さに注目してみよう。ほとんどが動物園顔をしているはずである。

 食物を探し、地面を掘り、外敵と相対するために、イノシシの前半身はがっしりとしている。体重比でいうと、前半身は全体の70%もあり、後半身は30%に過ぎない。後半身のほうが食肉としての価値が高いため、よく改良された品種のブタではこの比率が逆転されており、前半身は30%しかなくなる。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。