千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年10月17日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「午」を食べる~
ウマい地 マズい地

 東京の下町よりずっと特異的に多く馬肉を消費する地域がある。古い馬産地である信州は昔から馬肉が好まれ、長野市内には馬肉料理専門店が結構ある。また、九州は日本最大の馬肉生産地で、特に熊本は凄い。肉といえば馬をさす、という話もある。馬カレーなんていうものも普通に食べる。馬は他の獣肉と違って刺身で食べられるため、スーパーなどでも専用の売場があるくらいだ。熊本県を出たことのなかった人が他府県へ引っ越すと、スーパーで馬肉売場を探してしまうそうである。

 かつては、馬肉といえば地元産の馬肉のみを消費していたのであろうが、農耕用の需要が下がるにつれ、馬の飼養頭数が減り、馬肉の供給量も激減した。1935年に飼育されていた馬の数は約140万頭だったが、1972年には10万頭を切っており、その後も減り続けている。現在では、食用の馬肉は、アルゼンチン・ブラジル・オーストラリア・カナダ・メキシコ・中国などの外国からの輸入に頼るようになっている。直接に馬肉としての消費ではなく、その大部分は加工用に使われているのだが。

馬は「パワー」の象徴!?

 馬は仕事率や工率を表す単位「馬力」としても、世界中で使われている。馬1頭の持つ力を「1馬力」とし、力を測るための単位として定めたものであった。

 試しに、日本の全ての馬を集めた場合の「馬力」を計算してみよう。仮に、現在の馬の数が10万頭であり、その全てのウマが総力をあげたとしても、初期型鉄腕アトムの10万馬力にはとてもおよばない。実際には、馬は「1馬力」も出すことができず、本当は「0.7馬力」程度なのだそう。日本の全ての馬を動員しても、鉄腕アトムの7割程度の馬力しか出せないのである。

 また日本において「馬力」という言葉は、精力・活動力(スタミナ)の意味も持っている。「馬力のある人」「馬力をつける」のように使われることが多い。日本人にとって、馬は「パワー」の象徴となっているのかもしれない。

 

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。