千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

バックナンバー一覧

このページを印刷

2007年10月17日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

関連キーワード:趣味 グルメ

~「午」を食べる~
ウマい地 マズい地

モウコノウマ
モウコノウマ

 家畜馬は新石器時代の末にまず「肉用」として生じた。祖先種は、モウコノウマやターパンと呼ばれるものと同じ種であった。家畜化の中心地は、カスピ海地方、ウクライナのステップ地帯であったらしい。やがて馬は輓曳(牽引もしくは駄載)に使われる。「乗用」としてはそれよりも遅れて利用され始めた。

イギリス人が馬肉を食べない理由

 食文化を先進国のフランスから借入してきた、イギリスでの馬の立場はどうだろう。英語の「horse」は馬であり、馬肉の意味はない。イギリス人は馬肉を食べないのである。彼らに理由を聞いてみると、「お前らは乗り物を食べるのか?」と返されたことがある。

 しかし彼らが常食とする牛は、インドでは神の乗り物である。騎馬民族は馬を食べないというわけでもない。中央アジアの騎馬民族であるカザフ族にとっては、馬肉がご馳走である。更に、北東アジアの半遊牧民たるツングース族は、馬肉生産のための馬飼育を行なっている。馬の本来の役割を新石器時代から続けているわけだ。

 「馬先進国は馬肉など食べぬ」と強弁されたりするが、フランスのみならず、ベルギー、オランダ、ドイツ、イタリア、ロシアなどでも馬肉は良い食物であると考えられている。結局、馬肉食を非常に嫌うのは、アングロサクソンである。イギリス人とアメリカ人のアングロサクソン系が馬を食べないのに過ぎない。

 これには歴史的背景がある。もともとヨーロッパでは馬肉食は一般的で、土俗信仰のシンボルだった。しかしそこに、キリスト教徒たちがヨーロッパ北西部を侵略し、土俗信仰を破壊しながらイギリス本土にキリスト教を布教していった。

関連キーワード:趣味 グルメ

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

special topics

バックナンバー

最終回 ~「申」を食べる ~ 脳までも食べなさる (2008年03月28日)
第11回 ~「卯」を食べる~ 兎美味し彼の山 (2008年03月14日)
第10回 ~「戌」を食べる~ 羊頭ホットドッグ (2008年02月29日)
第9回 ~「寅」を食べる~ 食う虎 食わぬ虎 (2008年02月15日)
第8回 ~「辰」を食べる~ 竜はおいしく食べられる (2008年02月05日)
第7回 ~「酉」を食べる~ ニワトリは、時計とギャンブル (2008年01月18日)
第6回 ~「丑」を食べる~ ウシはコーカソイドと共に (2007年12月26日)
第5回 ~「未」を食べる~ 大いなる羊は美しいが (2007年12月12日)
第4回 ~「巳」を食べる~ 天高く蛇肥ゆる秋 (2007年11月28日)
第3回 ~「子」を食べる~ ネズミ食うべし (2007年11月14日)

注目の特集

【子供を襲うネット・ケータイの罠】

知らぬは親と教師ばかり ケータイとネットに潜む罠

子供の携帯電話の所持率が増加する中、携帯電話やインターネットでのトラブルが増加の一途を辿っている。犯罪に巻き込まれることも少なくない。その実態を追った「週刊ダイヤモンド」編集部総力特集

ページの上に戻る

PR

メールマガジン登録

最新アクセスランキング

1位
News&Analysis
トヨタグループが「パワーポイント」自粛令!?
2位
『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー
若手を枯らす「バイキン上司」が繁殖中!
3位
DOL特別レポート
中国は四川大地震をどう報じたか? ――新華社独占報道の功罪
4位
シリコンバレーで考える 安藤茂彌
クリントンのオバマいじめ、問われる大統領の品格
5位
竹中平蔵・上田晋也のニッポンの作り方
目覚めよ! 日本銀行

この連載に注目!

  • マンガ 餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?
  • 負けないビジネス交渉術
  • トップ営業マンの売れる営業テクニック
  • 部下の心をつかむ上司力トレーニング
  • 『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー
  • 世界の大富豪に学ぶ!お金と愛情の成功哲学
  • 寺坂淳の株式天気予報
  • 中学受験 お父さんが教える算数

強力コラム執筆陣が時代を斬る!

JavascriptをONにしてください

執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。