千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年10月17日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「午」を食べる~
ウマい地 マズい地

はじめに

 編集部から最初に戴いていたこの連載のタイトル案は、「千石先生 十二支を食べつくす!世界動物珍グルメ」といったものであった。タイトルとしては悪くないが、内容と合わなくなると思い、標記のタイトルとした。今後の展開で追々わかっていただけると思うが、「珍」とか「グルメ」とかの常識は、この連載を読むと逆転する可能性がある。

 例えば、ミルクを飲むことは人類として異常であり、ヘビを食べることは伝統的であり、ネズミを食べることは正しい食文化である、といったことにふれるであろう。また、「食べつくす」ことは、少なくとも私の場合、個人的タブーによって(タブーについてはトラの項ででもふれる予定)不可能である。

 ともあれ、この連載の内容としては、食を通じた人類と動物のつき合いの歴史を、主に生態学的・動物学的観点から分析しながら、自分自身が世界各地でそういう局面にふれたときの実体験を交えてエッセイにしてみよう、というものである。

 文化の流れや歴史は、生物学的にも必然であったことなどが、この原稿を執筆するにつれてわかってきて、動物学者である自分としてはとても面白かった。というわけで、みなさんもどうか気楽にお読み下さい。

古代から馬を好むフランス人

 フランス人はよく馬肉を食べる。フランス語で「馬」と「馬肉」は同じ単語「cheval」だし、「hippophagique(馬食い)」という単語もある。馬肉屋(boucherie hippophagique)が存在するのもさすがフランスだ。フランスの1人当たりの馬肉の年間消費量は約1.8kgで、アメリカの1人当たりの羊・子牛などの年間消費量より多い。

 フランス人が馬を好むのは相当に年期が入っていて、紀元前2万5千年の南フランスのソリュトレ遺跡から、ほぼ1万体分の馬の骨が出土している。この遺跡は川の合流点である絶壁の下にあり、旧石器人はここに馬を追い落としたか、崖下の袋小路へ追いつめて槍で殺したものと考えられる。殺された馬の数は2万年の間に3万2千頭から10万頭だったと概算された。出土した骨には、髄を破砕した例はごく少なく、そこまで徹底的に食べなくてもよい、肉に恵まれた生活が示されていた。中には、「舌や肝臓、心臓などの特定の部位だけが食されていた」と旧石器フランス人のグルメぶりを推察した研究者もいる。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。