2008年5月20日

横領鯨肉の証拠品確保についての声明文

国際環境保護NGOグリーンピース・ジャパンは2008年5月15日、「調査捕鯨」母船・日新丸の乗組員による鯨肉の大規模かつ組織的な横領行為をつきとめ、これを東京地方検察庁に告発しました。検察は本日5月20日、この告発を正式に受理し、捜査を開始するとしています。

「調査捕鯨」は、これまで日本国民の税金から100億円以上が補助金として投入されてきた、水産庁が管轄する最大規模のプロジェクトです。納税者および日本国民への透明性が確保されるべき実質国営事業で、今回のように鯨肉が一部の関係者により個人宅へ持ち出されるようなことがあってはなりません。またこの「調査捕鯨」は、国際的に認められた「クジラ保護区」で年間1,000頭規模もの鯨類を捕殺しており、日本の国際的な信頼とその科学性が疑われてしまっています。

この横領行為を公表し、税金の無駄遣いを正し、調査捕鯨の正当性と継続の価値を問うために、私どもはこのたびの告発に必要不可欠な物的証拠として、日新丸から同船乗組員の個人宅宛に郵送され、通常は公に出てくることのない大量の鯨肉の高級部位が梱包された荷物の1つを確保しました。その荷物は西濃運輸株式会社(以下、西濃運輸)の青森支店敷地内から確保しましたが、当時これにおける西濃運輸からの許可は得ておらず、同社にご迷惑をおかけたことに対して心からお詫びを申し上げます。お詫びと説明は、事後に口頭及び文書にて同社に申し伝えております。なお、私どもによる宅配物の確保は、その物的証拠なくしては不正行為を公表し正すことが非常に困難であると判断したため、他の選択肢がない中やむを得ず行った行為です。2008年5月20日現在、私どもはその荷物を検察庁からの指示のもと厳重に保管しております。

水産庁(管轄官庁)、財団法人日本鯨類研究所(調査主体)そして共同船舶株式会社(捕鯨船傭船会社及び乗組員雇用会社)は、20年以上にわたりこのような利権が根づく「調査捕鯨」を強引に継続させ続けてきました。本件が公表されたことを受け、同3団体は今日まで、それぞれが統一性のない発言を繰り返しており、横領された鯨肉を「土産」として済ませようとしています。

その最中、いよいよ検察庁主体で行われる調査が、長い間暗黙の了解として扱われてきた鯨肉横領の全貌を解明し、「調査捕鯨」の問い直しにつながることを切望しております。私どもは、鯨肉がどのような経緯で今私どもの手元にあるか、検察による調査に全面的に協力していく次第です。その調査は南極海を起点とするべきであり、問われるのは調査捕鯨の正当性そのものでなければならないと考えます。日本に根ざしたNGOとして、税金横領の温床の真相解明と、日本の国際的信頼および環境先進国としての立場の確立を願っております。

2008年5月20日
国際環境NGO グリーンピース・ジャパン
事務局長 星川 淳


グリーンピース・ジャパンのスタッフによる鯨肉持ち出し行為についての法的見解

2008年5月20日
弁護士 海渡雄一
弁護士 日隅一雄
弁護士 只野 靖

 共同船舶の船員らによる鯨肉の横領行為を告発するにあたって、グリーンピース・ジャパンのスタッフは、調査活動の過程において、西濃運輸のトラックターミナルから、日新丸の船員が自宅に送った鯨肉を1箱確保しました。

かかる調査方法の妥当性・違法性について、記者会見等で質問が多数寄せられております。そこで、記者会見でご説明したことと同じ内容ですが、刑事責任に関しての法的見解を整理しておきます。

まず窃盗罪についてですが、窃盗罪が成立するためには、判例上、主観的要件として「故意」だけではなく、「不法領得の意思」すなわち「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用し処分する意思」が必要とされています(大判大正4年5月21日)。

まず、前段の「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として」振る舞う意思についてですが、グリーンピース・ジャパンのスタッフは、共同船舶の船員らによる業務上横領罪の証拠として検察庁に告発するための証拠として確保したのであり、決して、自分のものにしようという意思はありませんでした。

また、後段の「その経済的用法に従い、利用し処分する意思」については、鯨肉の経済的用法としては、通常、食用に供したり、売却したりすることが考えられますが、グリーンピース・ジャパンのスタッフにはかかる意思は全くなく、あくまで、業務上横領の証拠として確保する意思しかありませんでした。

事実、5月15日に東京地検に告発状を提出した際にも、確保した鯨肉の現物を東京地検に持参して、担当検事にも、証拠として提出することを説明しています。

従って、グリーンピースのスタッフには、窃盗罪が成立することはないと考えます。

次に、建造物侵入罪が考えられますが、この成立のためには、一般人が立ち入りを禁止されている区域であることを要するところ、西濃運輸のトラックターミナルは、荷物の発送のために一般人も自由に出入りが許されている場所ですので、これには該当しません。

また、一般人が自由に出入りが許されている場所であっても違法な目的による立ち入りは本罪を構成することがありますが、前述したように、グリーンピース・ジャパンのスタッフには、違法な目的はありませんでした。したがって、この意味でも、建造物侵入罪が成立することはないと考えます。

また、グリーンピース・ジャパンのスタッフには、業務上横領罪の証拠確保目的しかなかったことからすれば、上記いずれについても、違法性阻却事由が認められると思います。

 以上のとおり、グリーンピースのスタッフに鯨肉持ち出し行為について、刑事責任を問うことはできないと考えます。


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