【成都(中国四川省)=福島香織】中国・四川大地震で被災した子供たちの心の傷のケアに、日本への留学経験のある専門家が奔走している。阪神大震災の際の「心のケア」に関するデータを集め、同僚らと被災した中学生や教師計120人余りのケアに当たっている。だが経験不足に悩んでおり「阪神大震災でケア経験のある専門家に指導してほしい」と訴えている。
被災した中学生らの心のケアに取り組んでいるのは、四川省唯一の心のケア専門医療機関「四川省応用心理学研究センター」がある成都医学院の応用心理学博士の陳孜さん(36)。
「何かしたいことある?」という陳さんの問いかけに「何もしたくない」と少年(13)は抑揚なく答えた。表情はまったくない。少年の家族は全員、いまだに安否が不明だ。
「18日ごろから心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を見せる生徒が急増しています。食事をとれない、言葉をまったく発しない、表情がまったくない、などの症状です。夜に無意識に徘徊(はいかい)する子も。サポートしたくても拒否されるケースもある」と、陳さんは顔を曇らせる。
軍の施設内にある同学院は建物が頑丈だったこともあり、被害がほとんどなく、震源地・●川(ぶんせん)県映秀鎮の生存者のうち中学生と教師が避難している。家族を亡くした生徒も多く、きめ細かなケアが必要という。
陳さんは熊本大医学部への留学経験があり、北村俊則教授の指導を受け5年余り臨床行動科学や心のケアを学んだ。昨年帰国し、同学院に配属された。四川省に約70人いる心のケアの専門家のうち、日本語が分かるのは陳さんだけだ。
「中国でも1994年から心のケアの研究が本格化しています。しかし、地震被災者のケアはほかの災害とは全く違う。余震が続くため、恐怖が長引く。中国では震災被災者ケアの経験が少ない」
一番参考になるのは阪神大震災のデータだといい、インターネットで日本の専門家の論文やデータを探しては現場で応用する作業が続いている。「中国人は加油(がんばれ)とか希望という言葉が好きですが、これは逆効果というのも学びました」
さらに、「生徒だけでなく、責任のある教師も重症。さらに救援活動をする側の心のケアも必要」と陳さんはいう。四川なまりが聞き取れない外地や外国の専門家が現地の心のケアに直接関与することは難しいが「症状や回復段階に合わせたきめ細かなケアをするにはどうすればいいかなど、日本の経験を私たちに指導してもらいたい」と話している。
●=さんずいに文
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