「大学全入時代」に事実上突入し、学力低下が懸念される大学生に対応しようと、イラストを満載し平易な文章で分かりやすく解説したテキストが誕生した。一連のシリーズを発案、監修する渡辺利夫拓殖大学長は「学生の学力に見合った教材が必要だが、実際に使われている入門書は難しい。大学テキスト界に革命を起こしたい」と述べ、既刊の政治学を皮切りに、さまざまな分野で計20冊以上発刊しようと意気込んでいる。(小田博士)
≪記録残せるノート型≫
新テキストは法律関係や社会学関係の書籍で知られる老舗の出版社「弘文堂」(東京都千代田区)が刊行する「プレステップシリーズ」。第1弾は「政治学」(著者・甲斐信好拓大教授、B5判160ページ、1890円)。4月に3000部発刊した。
文体は「ですます調」で平易。高校までの教科書に使われる吹き出し入りのイラストも目立ち、「なぜ選挙があるのか」「なぜ人間は戦争をしてしまうのか」「地方分権とは何か」といった素朴な疑問に答えつつ、政治の基本的な仕組みから専門知識まで、段階を踏んで理解できる構成だ。
1年間を前・後期に分けて各期で授業を完結させる「セメスター制」に対応。「議会と政治家」「リアリズムとリベラリズム」「国家の多様性」「開発と民主化」といった重要テーマを厳選し、全12章の各章末には学習のポイントも掲載。講義1回ごとに学生の達成感が得られるよう配慮した。書き込みが出来るノート型のため、学習内容を残すこともできる。
学び直したい社会人や短大生、推薦やAO入試で大学進学が決まった高校3年生の事前学習にも役立ちそうだ。
≪執筆者も募集中≫
渡辺学長は「偏差値40〜50前後の平均的な若者が学ぶテキストがなかった」とかねてから憂慮。10年ほど前からさまざまな出版社に発刊を働きかけてきた。ただ、「趣旨は共感できるがうちでは無理」といった声が多く、今回ようやく実現にこぎつけた。
渡辺学長は大学生の学力低下について「学生の知力が落ちた一面もあるが、2人に1人が大学生になり、誰でも入れる状態になった」として構造的な原因が大きいと指摘する。
さらに、「現在の学生は交流範囲や関心領域が狭く、難しい内容は敬遠しがちだ。だが、嘆いてばかりいるより、現状に立脚して大学改革のモデルをつくりたい。平均的学生が底上げされないと日本の大学教育は変わらない」と訴える。新テキストが普及すれば、学問研究が重視され教育がおろそかになりがちな「学問の府」に対する刺激剤ともなりそうだ。
弘文堂によると、今年度中に会計学、経営学、マーケティング論、金融学、来年度にも法学、ミクロ経済学などの分野で順次発刊していく予定だ。ただ、発行分野や執筆者が未定の部分もあり、渡辺氏は「学生の実情を熟知し、学力向上へ向けて現場で格闘している改革意欲のある教授に書いてもらいたい」と募集している。執筆に関する問い合わせは弘文堂編集部((電)03・3294・7003)。
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