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【断 久坂部羊】麻酔科医の逆襲への逆襲
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前回(8日付)の当欄で、フリーの麻酔科医が増えたのは、これまで激務と軽視に耐えてきた麻酔科医の「逆襲」であると書いた。その背景には圧倒的な麻酔科医の不足があり、麻酔科医が足りないために、手術の件数が制限される病院もあることも書いた。
この逆襲に報いる手はないのか。ひとつある。「麻酔看護師」または「麻酔技師」の資格創設である。
全身麻酔は、かけはじめ(導入時)と、醒ますとき(覚醒(かくせい)時)にリスクが高い。手術が行われている間(維持期)は、比較的リスクが低い。にもかかわらず、多くの病院では、この期間も麻酔科医が一人張りついている。
維持期の監視を麻酔看護師・技師に担当させれば、導入と覚醒をずらすことによって、一人の麻酔科医が複数の手術の麻酔をかけられる。こうすれば手術件数の制限は一挙に解決するだろう。
しかし、麻酔看護師・技師の導入には、麻酔科医の猛烈な反発が予想される。たとえリスクが低くとも、もし並列麻酔で同時に問題が発生すればお手上げだからだ。
安全絶対・現場無視のマスメディアからも反論があるだろう。看護師や技師が麻酔に関わって、安全が保証できるのか、事故が起こったら、だれが責任をとるのか等々。
しかし、今の日本の医療は、そんな贅沢(ぜいたく)をいっておれる状況ではない。がんの診断を受けて、いつ転移するかしれない患者が大勢、手術待ちをしているとき、何を優先すべきかは明らかだろう。(医師・作家)