公的年金の財政基盤を根本から立て直すかどうか、首相が主宰する社会保障国民会議が議論を始めた。
焦点は働く世代と企業が負担している社会保険料を基本に財源を賄っている現行方式を全国民が負担する消費税などに置き換えるか否かだ。移行論が盛んな背景には、保険料の未納問題の深刻化で国民皆年金が名ばかりになっていることがある。
その議論を深めるのに参考となる長期試算を政府が同会議に示した。基礎年金の財源すべてを消費税に置き換えた場合、2050年度までに税率をいくら上げる必要があるかなどを多面的に推計したものだ。
試算から見えてくることがある。保険方式から消費税方式への移行方法を工夫すれば、税率の上げ幅を多くの国民が漠然と想定している数字より低めに抑えられることだ。
過去に保険料の未納がある人は未納期間分だけ年金を減らし、合わせて税方式の年金をその加入期間に応じて払う方法なら、25年度までの引き上げ幅は3.5%になる。これとは別に、約3分の1の国庫負担比率を2分の1に高めるのに1%分の増税が必要になる。つまり今後20年弱は消費税率を4.5%高くすれば財源を賄える計算だ。
日本経済新聞社の年金制度改革研究会が1月に出した報告は、同様の移行方法を前提に消費税方式を提案した。その際、5%前後の税率引き上げが必要と試算していた。
政府試算をもとに軽減税率の導入を考慮せずに計算すると、当面の高齢化のピーク時も税率は一ケタにとどまる。長期的に消費税率を何パーセントまで上げるかは国民の選択だが、年金を税方式に変えても医療や介護の給付に必要になる財源をある程度は消費税でも賄う余地は出てくる。その観点から本社報告は持続性の高い改革像を示したといえる。
政府試算には腑(ふ)に落ちない点もある。税方式によって軽減される基礎年金の事業主負担がサラリーマン世帯へつけ回しされるという図式を前面に出していることだ。
企業の社会保険料は人件費に分類される。軽減分を賃金として従業員に還元する経営者もいるだろう。消費税方式が企業負担を家計に押し付けるものだと単純にとらえるのは、国民に誤解を与える。
さらに理解に苦しむのは、国民年金の保険料徴収率が65%で推移し続けた場合の試算を出したことだ。年金の財政収支への影響が軽微だと強調したかったのだろうが、政府自らが肝心の皆年金を見捨てるかのような前提を置いたのは驚きである。