子供の世界に「携帯電話依存」が指摘されている。政府の教育再生懇談会は、子供に携帯電話を持たせないよう親に呼びかけるなど使用制限の方針を打ち出した。だが、ただ取り上げたり、制約したりするだけで解決はしない。子供のコミュニケーション能力に深刻な影響を与えている問題として取り組む必要がある。
内閣府の調べでは、携帯電話・PHSの普及率は小学生31%、中学生58%。小学5年生と中学2年生の使用者を対象にした日本PTA全国協議会のアンケートでは「深夜でも構わずメールのやりとりをしてしまう」が小5で11%、中2で51%▽「メールの返信がないととても不安になる」が小5で18%、中2が24%で、学年が進むにつれ傾倒していることが分かる。
さらに中2の場合「食事中やだんらん中でも手放せない」が21%、「勉強中や授業中でも気になってしょうがない」が16%。また12%が「会ったことがないメールだけの友達が5人以上いる」といい、35%が「親の知らないメル友がたくさんいる」と答えている。
かつて子供同士の電話には大人(家族)が介在し、時間帯も限られていた。携帯電話は即時・直接に子供同士を結び、取り次ぎ依頼の言葉やマナーも無用だ。
そしてメールは、機能を悪用し、匿名でいじめにも使われる。アンケートでは中2の3%が「メールなどでいじめられたことがある」といい、4%が「学校裏掲示板へ書き込みをしたことがある」と明かした。有害サイトへのアクセスも3%がしているという。その悪質さや危険性からいって、これらは決して看過することのできない数字だ。
メールは感情のおもむくままの言葉を連ねやすい。抑制が利かず、考えを練る前につい送る。アンケートでは中2の19%が「公共マナーをつい破ってしまうことがある」と答えており、その傾向を裏づけている。
教育再生懇談会は(1)小・中学生に携帯電話を持たせない(2)通話と位置確認に機能を限定する(3)有害サイト閲覧制限の義務付け、などを報告書に盛り込む考えだが、実現性や効果に疑問、課題がある。というより、この依存傾向は子供たちのコミュニケーションや自己表現力が急速に変容し、健全さから遠ざかっていることの表れではないか。そういう視点もないと問題の本質を見逃すことになろう。
文部科学省は適切・有効な情報の発信や利用ができる「情報リテラシー」教育の必要を説き、情報モラル育成も唱えてきた。しかし、実際に指導法が確立されているわけではない。一方で事態は先にどんどん進んでいる。
実態をもっと深くつかみ、対処法を得よう。子供たちは、将来はるかに高度な情報網社会を担う。「依存」問題の改善は、その人材を育てることでもある。
毎日新聞 2008年5月21日 東京朝刊