基礎年金の財源を全額税金でまかなうためには、こんなにも消費税率が上がるのか。多くの国民はそう思ったはずだ。
政府が社会保障国民会議に示した年金改革の試算は「基礎年金の税方式は難しい」という強いメッセージを発したものだ。政府は「これによって税方式を除外するものではない」とはいうものの、あまりにもインパクトの強い試算の公表が、多様な年金改革の議論を封じてしまうことになれば、望ましいことではない。試算を年金改革の議論を行うための参考データと考えればいいのではないか。試算にとらわれすぎて、自由な議論ができなくなるのでは困る。
基礎年金の財源については現行の保険料方式か、税方式に変えるかで議論が分かれている。試算は経済成長や少子高齢化の進み具合など、前提条件をどう置くかによって変わってくる。政府は、基礎年金の財源を消費税で換算した場合のデータだということを十分に説明し、国民に誤解を与えないようにすべきだ。
今回の試算の意味を挙げるとすると三つある。第一は試算の基礎データを公表し、第三者が再検証できるようにしたこと。次に、いまだに政治的な決着がついていない消費税の大幅な引き上げについて、試算という形をとって言及したこと。三つ目は基礎年金の財源について従来の社会保険方式に加え、税方式も検討項目に加えたことだ。
従来の方式にとらわれず、国民に基礎データも公表して議論をしてもらおうという政府の考えに反対する人はいない。むしろ、国民が必要とするデータを隠さずにすべて提供して議論を深めることが必要だ。
年金制度を厚生労働省と社会保険庁に任せきりにしてきたことが、さまざまな不祥事の要因になり、それが年金不信につながったことを考えると、積極的に情報を公開して、議論を深めることは当然のことだ。後期高齢者医療制度のように、改革が始まってから「聞いていない」などということのないようにしてもらいたい。
少子高齢化によって社会保障は多くの問題を抱えている。消費税の議論は年金だけでなく、医療や介護制度も含めた一体的な議論が必要だ。だとすれば、年金だけを消費税でまかなうという選択肢は考えにくい。
国民会議は6月には中間報告をまとめるが、最終的には政治の場でどう改革を行うかが問われることになる。04年の年金改革では「100年安心の制度」と与党は胸を張ったが、国民の信用が得られたとはいえない。国会では与野党の年金協議の場が設けられたが、何も進んでいない。
政治が年金の抜本改革から逃げていてはいけない。今、国民が知りたいのは、政府はもちろん、各政党の明確な年金改革案だ。
毎日新聞 2008年5月21日 東京朝刊