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2008年05月21日(水曜日)付

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公務員改革―この熱意のなさは何だ

 同じ政府提出の法案なのに、与党のやる気はどうしてかくも違うのか。道路特定財源に関する法案と国家公務員制度改革基本法案のことである。

 道路がらみの法案は、野党の反発を押し切り、衆院の3分の2で再可決した。一方の公務員制度改革法案は、福田首相が成立を指示しているのに、何としても実現させるという熱意が見受けられない。

 ガソリン税の暫定税率を維持し、道路建設の財源を確保することは、政治家や業界の既得権益を守ることにつながる。一方で公務員制度改革は、こうした権益を長年分かち合ってきた官僚のあり方を改めようというものだ。

 そんな官僚への身内意識から、自民党内では今回の改革について、法案づくりの段階から後ろ向きな姿勢が強かった。だが、縦割り行政や官僚主導の弊害を改め、公務員の能力を最大限に引き出すための改革は、これからの少子高齢社会に向けて、もはや避けては通れない。未来の国民全体の利益がかかっている。

 衆院で審議中の政府案は、幹部公務員の人事を審査する「内閣人事庁」を設けることが柱だ。

 もともとは、幹部の人事権を各省から人事庁に移すことで、「省益あって国益なし」といわれる閉鎖的な人事制度に風穴を開けようとするものだった。だが、最終的に国会に出てきたのは、人事の原案は各省がつくるという骨抜き案である。

 一方、民主党がまとめた対案は、「人事庁」とよく似た「内閣人事局」を設け、幹部人事を一元管理するとしている。政府の当初案に近い。

 民主党はまた、年内に発足する官民人材交流センターが公務員の再就職をあっせんする新制度に反対し、天下り廃止と65歳までの段階的な定年延長を主張している。

 民主党内では、政府案に反対が大勢だが、何もしないよりは政府案を成立させた方がいいとの声もある。このまま政府案も民主党案もつぶれてしまえば、喜ぶのは現状維持を望む官僚だけだからだ。

 政治がなすべきことは、はっきりしている。まずは本格的な修正協議に踏み切ることである。

 とかく官僚寄りの自民党内にも、政権浮揚のために改革を進めるべきだとの勢力がある。多少なりともやる気があるなら、民主党案を逆手にとって、骨抜き案にもう一度骨を入れ直すこともできるはずだ。

 会期末まで4週間を切った。残りの時間は少ないが、内閣による人事の一元化など、折り合えそうな部分だけを切り離してでも法制化できないか。

 その上で、一致できない部分は、与野党がそれぞれマニフェストに掲げて総選挙で争えばいい。

台湾新総統―現状維持は賢明な選択

 「統一せず、独立せず、武力を用いず」

 台湾の新総統、馬英九氏(57)は昨日の就任演説でこう述べ、中国との関係について現状維持の立場で臨む姿勢を強調した。

 この「三つのノー」は、3月の総統選挙の前から発言してきたことだが、中台関係の基本路線を改めて鮮明にしておきたかったのだろう。

 独立志向の強かった陳水扁前政権の時代には、いら立つ中国との間で関係は冷え込んだ。8年ぶりの国民党政権の誕生を、中国は歓迎している。台湾海峡はしばらく波静かになりそうだ。

 馬氏は、中台間の週末チャーター直行便を7月から始めたいなどとし、「両岸(中台)関係を新しい時代に入らせる」とも述べた。政治的な問題は前面に掲げず、対中投資の規制緩和など経済の面で結びつきを強めていこうという政策だ。

 そのための関係改善はすでに動き始めている。馬政権のナンバー2、蕭万長副総統が就任前の4月、中国を訪れて胡錦濤国家主席と会談している。また、国民党トップの呉伯雄主席も近く訪中する。

 だが一方で、馬氏は米国との緊密な関係を強化していくとし、国防力整備の必要も指摘した。交流は広げるが、中国による武力統一への警戒は緩めないということだ。

 台湾海峡が安定することは、日米や周辺国にとってプラスだ。今後の中台対話を通じて、軍事的な緊張緩和にも一歩を踏み出してもらいたい。

 中国は、台湾との衝突を想定した兵器の拡充や軍事訓練を重ねてきた。台湾の対岸には、千基以上といわれるミサイルを並べている。台湾も対抗して新兵器の開発を進めている。こうした軍拡競争を止め、相互の信頼を高めるような措置はとれないものか。

 外交面でも、安定した中台関係に向けて工夫の余地がある。

 ジュネーブで始まった世界保健機関(WHO)総会で、台湾が切望するオブザーバー参加は、中国の反対で議題にすらなっていない。新型インフルエンザなど感染症の脅威は、地球全体の問題でもある。人道的な見地から中国は度量を見せてはどうか。

 中台の結びつきが強まれば、投資や物流などこの地域の経済にも大きな変化をもたらすかもしれない。日本企業も目を離せまい。

 馬新総統には、歴史問題をはじめ日本に厳しい視線を向けているという見方もあった。だが、最近は植民地時代に水利事業で台湾に貢献した日本人技師の慰霊祭に出席するなど、良好な関係を築いていきたいとの意欲を示している。

 日本も、中台関係の安定を支えていけるような外交を強めたい。

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