中国・四川大地震は、時間の経過に伴い被害のすさまじさが次々と明らかになっている。被災現場では生き埋めになった人の救出活動とともに、がれきの片付けなども本格化しており、被災者の生活支援や感染症対策が急務となる。
地震による死者の数は、中国政府の発表の度に数千人単位で増え続ける。山奥に散在する村には救助隊が入れず、被害の実態さえつかめないが、推計では死者は五万人に上り、被災者は一千万人を超えるとされる。
中国政府は犠牲者を追悼するため地震発生後、一週間たった十九日から二十一日までを「全国哀悼日」と定めた。北京五輪組織委員会も同じ期間、五輪聖火リレーを一時中止する。
聖火リレーは地震発生翌日の十三日、福建省で予定通り実施されると、国内のインターネット上で「われわれ中国人に良心はないのか」といった非難が続出した。その後はリレーと並行し募金活動が行われてきたが、国民の感情を考慮し一時中止するのは当然の措置だろう。むしろ遅すぎた感さえある。
被災地では家を失った人たちが、体育館やテントなどで暮らす。集団生活のストレスから体調不良を訴えたり、衛生状態の悪化で下痢や風邪などの感染症が発生している。特に抵抗力が弱い子どもや高齢者への影響が懸念される。
こうした二次被害の拡大を防ぐには、食料や医薬品、医療スタッフなどの配備が欠かせない。仮設住宅の整備も迫られよう。中国政府は人命救助から生活支援や感染症対策、街の復旧に活動の重点を移しつつある。日本政府も被災者救出のため派遣している国際緊急援助隊を撤収し、中国側の要請を受けて、医療支援チームに切り替える方針を明らかにした。
確かに状況の変化に合わせて、支援の在り方を変えていくことは重要だ。地震国の日本では、阪神大震災などで培った支援のノウハウが蓄積されている。それを有効に生かすには、中国が具体的にどういう援助を望んでいるのかを的確につかむ必要がある。
今回の地震は都市型とは異なり、被災地の面積は広い。被害は多方面にわたり、強い余震が続き死者が相次いでいる。崩れた土砂が川をせき止めてできたダムに決壊の恐れも生じている。
中国政府の対応は困難を極め、復興へは長い時間がかかろう。国際社会と十分に意思疎通を図り、状況に応じたきめ細かい対策が求められる。日本は長期的視点で最大限の支援に取り組みたい。
日本、インドネシア両国政府は経済連携協定(EPA)に基づき、七月に始まるインドネシアから介護士と看護師を受け入れるための覚書を締結した。
技術者や研究者など高度な専門・技術分野以外の外国人労働者の本格的な受け入れは今回が初めて。日本の労働市場は新たな局面を迎えた。
計画では二年間で介護士が六百人、看護師が四百人となっている。両国が来日希望者と受け入れ希望施設を募って組み合わせを決める。介護士と看護師の候補者は来日して半年間、日本語や業務の基礎知識などの研修を受けた後、受け入れ先で看護師の助手や介護職員として働く。介護士は四年、看護師は三年の間に国家試験に合格しなければ帰国させられる。
介護や看護の現場は深刻な人手不足にあえいでいる。少子高齢化の進展で働き手自体が減ったことに加え、低賃金や過酷な勤務内容が離職に拍車をかけている。少子高齢化の進行は介護や看護を受ける側が増加していくことも意味する。このままでは事態は悪化するばかりだ。
しかし、「国内で足りなければ海外から補えばよい」では安易に過ぎよう。安く過酷な労働実態のまま海外の労働力が入ってくれば、日本人の雇用の場が失われるのはもちろん、外国人労働者も使い捨てにされかねない不安定さがつきまとう。
処遇を改善して離職の進行に歯止めをかけるとともに、介護士や看護師の資格を持ちながら現場を離れている計七十五万人といわれる潜在労働力を活用することが重要だ。
今回の受け入れについて厚生労働省は「海外との経済連携の強化が目的で、労働力不足の穴埋めではない」との見解を示す。将来的に労働開国に結びつくかどうかの試金石であろう。
(2008年5月20日掲載)