◎馬氏が台湾総統就任 八田氏評価の真意見定めたい
台湾の新総統に就任した国民党の馬英九氏が、李登輝、陳水扁政権と続いた「親日」路
線を継承するかどうかは、台湾との関係が強まる北陸にとっても大きな関心事である。
馬氏は烏山頭ダムで今月上旬に営まれた八田與一技師(金沢市出身)夫妻の墓前祭に参
列して親日ぶりを示した。それが一過性の政治的パフォーマンスなのか、それとも「反日」とみられがちだった対日姿勢の転換を意味するものなのか。馬氏の対日政策を通して、その真意を見定めたい。
馬氏は日台間で争われている尖閣諸島の領有権をめぐり、かつて「日本と一戦も辞さな
い」と公言したほか、首相の靖国神社参拝を批判した。そうした言動が「反日」のレッテルにつながってきた。このため、八年ぶりとなる今回の政権交代で従来の親日路線が微妙に変化するとの見方も出ている。
八田技師夫妻の墓前祭で、馬氏は「当時の植民地政府の行いについては、さまざまな意
見があるが、八田氏の業績は誰もが評価している」と述べた。不毛の嘉南平原を穀倉地帯に変えた八田技師個人については感謝の念を抱くものの、李登輝氏のように、日本統治時代まで認める考えではないようだ。歴史認識も含め、馬政権の対日姿勢はまだ明確にはなっていない。
就任演説で、馬氏は持論である「統一せず、独立せず、武力を行使せず」の「三つのノ
ー」を強調しながら、中国との関係改善に意欲を示した。対中融和と、高まる「台湾人意識」のバランスを取る構えだが、中国は対話再開に積極姿勢を見せるのは間違いない。本格化する四川大地震の復旧が関係改善のきっかけになる可能性もある。中台の緊密化は、日中台の関係が流動化することを意味し、日本としても馬政権のスタンスから目をそらすわけにはいかないだろう。
台湾での最近の調査では、最も好感度の高い国は日本となっている。日本と台湾の行き
来は年間二百五十万人を超え、石川県でも外国人観光客の半数以上が台湾である。台湾との良好な関係は日本のアジア外交にとって極めて重要であり、今後は新政権に応じた柔軟な台湾政策が求められよう。
◎赤ちゃんポスト1年 評価したい相談の大幅増
熊本市の慈恵病院が、親が育てられない乳幼児を匿名で受け入れる「こうのとりのゆり
かご(赤ちゃんポスト)」を設置してから一年余になった。預けていく親より悩み(妊娠葛藤(かっとう))について相談する親が大幅に増えたことを評価し、さらに温かく見守っていきたい。
設置を許可し、支援している同市の運用状況公開によると、昨年五月十日の設置から今
年三月末までに県内外から十七人の預け入れがあり、うち一人はすぐ親に引き取られたという。赤ちゃんポストには親あての病院側の手紙が入れてあり、読んで思い直した親もいたのだった。
法律上問題になるケースは一件もなく、産むことに悩む妊娠葛藤の相談が飛躍的に増え
た。赤ちゃんポスト設置と同時に、同市は妊娠相談窓口を二十四時間態勢に強化した結果、相談件数はそれ以前に比べて実に七倍の七百三十二件に上ったというのである。
相談活動は石川県でも行われている。慈恵病院などの人たちと志を同じくする「ワン&
オンリー石川いのちの会」の働きかけで、県が〇五年から「妊娠一一〇番(076―238―8827)」を開設し、助産師が交代で相談に応じている。
知られるに従って相談が徐々に増え、〇七年度は百九十件。前年度は七十七件だったか
ら、約二・五倍に伸びたのである。昨年十一月からメールでも受け付けることにし、今年四月からは隔週だった土曜日も毎週に改めた。火曜日だけこれまで通り午後六時から九時までで、それ以外の月曜日から土曜日までは毎週午前九時三十分から十二時三十分まで行っている。
富山県にもワン&オンリーいのちの会があり、現在は経済的な問題で赤ちゃんを産めな
い女性を支援する「円ブリオ基金」活動で手一杯だが、近い将来、石川県のいのちの会のように、県に「妊娠一一〇番」の開設を働き掛けたいとしている。
赤ちゃんポストは増えればよいというものではない。が、中絶に待ったを掛ける妊娠相
談は全国的に広げ、強化していきたい。