障害児施設に入所した子供の保護者に施設利用料などを課す「契約制度」を巡り、厚生労働省が家族の経済的事情を考慮する必要性を否定し「保護者が支払いを滞納した場合は、子供を退所させることも可能」とする通知を出していたことが分かった。通知は公費負担で養う「措置制度」の対象児童を限定する見解も示しており、障害児への公的責任を著しく狭める国の姿勢が浮き彫りになった。
厚労省は障害者自立支援法の本格施行を控えた06年6月、障害児に措置制度を適用する要件として、保護者が(1)不在(2)精神疾患(3)虐待--のいずれかに該当することを定めた。さらに7月、全国児童相談所長会に措置を適用する場合の具体例を通知した。
通知は「不在」の判断について、保護者が入院中や施設入所中でも病院・施設名が分かれば対象にならないことを明示。「精神疾患」に該当するのは「家裁に成年後見人の利用申請中」の保護者に限った。
虐待に走る恐れがある故意に支払わない保護者についても「(虐待に当たる)養育拒否とは認められない」と定義。滞納世帯の児童は「(施設が)契約を解除することも可能」との見解を示した。
日本知的障害者福祉協会の調査では、24都道県で契約と判定された児童の割合が7割を超えた。厚労省の通知を厳格に運用しているとみられる。
厚生労働省障害福祉課は「一つの指標で『文言通りに従え』という意味ではない。子供の状況を勘案し、総合的な判断をするのは児童相談所の役割」と話している。【夫彰子】
児童は自己選択権も、不適切な境遇から自力で逃れる手だてもない存在で、公的責任の措置制度が重要だ。「公権力に基づく措置は自由がない」との指摘があるが、措置でも保護者の意向を尊重する手続きがある。措置に問題があるなら改善を検討すべきで、契約の導入が解決策にはならない。障害児だけ措置を制限するのは児童間の不公平で、国の責任逃れだ。
毎日新聞 2008年5月20日 東京朝刊