新華僑や華人の多くは家庭内では日本語より中国語を日常的に使うことが多いが、その子女達は外部との接触では日本語を多く使うため、能動的な中国語教育をしなければ、中国語は使えないようになりやすい。民族学校は大都市にしかないため、子女の民族教育には通常、多くの困難があり、親も子もかなりの努力が必要となる場合が多い。
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(6)来日119周年、我が家の伝統のゆくえは?
日本では毎年末、日本に滞在する外国人の情報を法務省出入国管理局が発表する。2006年12月31日現在のものが最新の資料である。
それによると、現在日本にはおおよそ208.5万人の外国人が在留・滞在している。そのうち中国人は約56万人で第2位、毎年増加傾向にある。第1位の韓国・朝鮮人は減少傾向にあるのでおそらく今年度の発表では中国人が第1位になっていると想像される。
新華僑・華人は故郷を思いよく集う
この56万人の半数以上は永住あるいは定住などの在留資格を持っていて、長期に日本に住んでいる。これ以外に日本人と結婚したりあるいは残留孤児の家族として来日後、日本に帰化した者や仕事の都合や利便性を求めて日本に帰化した、いわゆる「華人」も少なくない。だが、日本のいずれの役所でもその実数は把握できていない。
戦前から日本に居留している3万人ほどの華僑を除くと、いまや90%以上の在日中国人は新華僑である。
新華僑や華人の多くは家庭内では日本語より中国語(漢語普通語以外の方言を含む)を日常的に使うことが多い。しかしその子女達は外部との接触では日本語を使う機会が多いため、家庭内でも親の話す中国語に日本語で答えるケースが多いという。
新華僑・華人の大人の多くは、その国籍にかかわらず自己のアイデンティティとしては中華民族と意識している人が多い。そして彼らの多くは、自分たちの子女が中国語を話さない、あるいは話せないことに危機感を感じている。
ただ、先の記事で紹介した「民族学校」は東京・横浜・大阪・神戸などのいくつかの大都市にあるだけだし、収容定員にも限界がある。またその近郊に住む人にとっては、学費に加え通学の交通費などの問題もあったりして、実情としては多くの人は日本の公立の小・中学校へ通うことになる。
そして日本の公立学校に通う子女は、当然のように家庭でも日本語でしか両親と対話できないようになる。
私の近隣に住む新華僑・華人のグループでは週に1度くらいのペースで公的な機関が運営する家賃の安い会場を借りて、講師を雇い「中国語講習会」を開いたりしている。だが、週1回では大きな成果を期待することはできない。
また、家庭によっては春や夏の長期の休暇のある時期、中国の故郷に子女を連れ帰り、中国に慣れ親しませようとしたりする。これも、成長と共にそうした休みの過ごし方が子供たちに敬遠されるようになる。
大阪中華学校の低学年の授業風景
ある中国語の会話教室で見かけた上海出身の新華僑の家庭では、小学4年生と2年生の男児を毎週土曜日に母親が連れて教室に通わせていた。
授業時間中、上の子はまだ少しはおとなしくしていたが、下の子は落ち着きがなく、ほとんど上の空であった。この親子には大阪中華学校への編入を勧めたが、通学時間やその他いろいろな条件をあげて母親はそれを選択しなかった。
新華僑・華人の中には日本で高収入を得ている家庭も多い。こうした家庭では、中国への出張などの多いエリートビジネスマンがよくやるように、夫や妻の両親の家に子供たちを預けるという方法をとっている例も少なくないという。つまり子供たちだけを中国に住まわせ、そこの学校に通わせるという方法で「外注」(GAITYUU=外部に委託する意)しているのである。
この方法であれば、学校教育という枠では「民族教育」は保証されるが、家庭教育の面では問題が起こる可能性がある。また実際に起こっているということもよく聞く。その原因は、子供たちにとって「おじいちゃん・おばあちゃん」という優しくて可愛がってくれる「庇護者」は存在するが、ときには厳しくしかる「親」が常にいない状態となるためのようだ。しかもその「親たち」も、休みのときに長らく会っていない子供たちに接すると、その対応は非常に「甘い」ものとなりがちであろう。
私の姉の知人で日本のある大学の中国人教授は、一人娘を中国の自分の両親の家庭に預け、毎日インターネットを使い、パソコンのモニター画面上で連絡を取り合って娘の宿題の添削などをしているという。もっともこれはかなり特殊なケースで、双方に時間的に余裕がないとできないことである。
いつの時代でも海外にいる華僑・華人の民族教育にはいろいろな困難があるもので、親も子もかなりの努力が必要となる。
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