しかし、シネラー氏によると、「経済見通しが明るいこと、政府の債務といっても公共事業の拡大のために投資を増やしている部分が大きく、対外債務の規模はそうでもないこと、それに金利が低下基調にあり債務負担も軽いこと」などを理由に挙げている。
ブラジル経済の力の源泉は資源
世界の信用市場がサブプライム問題以降、投資リスクに過敏になっている折に、こうしたS&Pの今回の措置は流れに逆行しているようにも思える。しかし、ブラジル経済はかつてと様変わりで体質が大きく改善しているとの見方が多い。ブラジル中央銀行(BCB)は4月16日の金融政策委員会で政策金利(翌日物国債レポ取引金利)を0.5%引き上げ11.75%としたがインフレ予防的な意味合いが強い。
しかも、それまでは2005年9月から2007年9月まで18回にわたり利下げを実施していた。さすが、農業国、資源・エネルギー国だけのことがあり、世界的なインフレの波には巻き込まれにくくなっている。かつて、「レストランに入る時と出る時では料金が違う」と言われた狂乱物価の時代とは様変わりだ。
ブラジルの大手銀行イタウ銀行のチーフエコノミスト、グレルマ・ノブレ氏によると、「ブラジル経済は過去の手痛い教訓を種にして大きく変わりつつある」が、それは「政府の能力が向上、あまり規制せずに経済を活発化させる洗練さを身につけた」と分析している。
その点は他の中南米とだいぶ違うところだ。それに「政治の安定度が増し、GDP成長率は6%程度だが、これが今のブラジルにちょうどよい。通貨高もあり、インフレを回避しながら力みなく成長するパターンに入っている」と指摘している。
加えて言うならば、資源国の強みもあろう。ブラジルは電力の95%近くが水力で賄われ、街中のガソリンスタンドではバイオガソリンが売られており、“再生可能エネルギー”のモデルのような国である。石油依存度が少ないのに、最近、大型油田の発見が相次ぐ不思議にも恵まれている。
今年4月、カリオカ海洋油田が原油埋蔵量330億バレルで世界3位の油田になりそう、と発表された。この国にとって石油は主力輸出商品になりつつあり、近い将来、OPEC(石油輸出国機構)に加盟するとも言われる。
いつの間にか他のBRICsの国と肩を並べる
ブラジルは中国、インド、ロシアとともにBRICsといういまや世界的に知名度のある称号を得ている。もっとも、これまでは経済成長、人口、資源などで他の国に大きく水をあけられていた。特に経済規模と政府のフトコロには問題があった。
ところが、ここ数年で対外債務が大きく削減され、経常収支に対し政府の対外債務は2004年に100%を超えていたのが昨年はわずか3%となった。つまり、“フロー”では見違えるように良くなったのである。“ストック”である外貨準備にしてもこの2年で635億ドルから1968億ドルに3倍に増えている。今後は石油輸出が大きく貢献しよう。