社会保障国民会議がまとめた基礎年金の税方式化に関するシミュレーションの結果は、税の負担増からその実現が困難であることを印象づけた。税方式の是非についての本格的な議論はこれからだ。
国民共通の基礎年金(国民年金)の保険料は現在、加入者の保険料と国庫負担(税)で賄っている。これを全額税で賄う方式に変更すると負担はどうなるか。そのシミュレーションを政府が初めて行ったのは、現行の社会保険方式の限界を指摘する声を無視できなくなったためだ。
社会保険方式をとる限り、保険料を支払えず、保険料の未納者、制度自体への未加入者が発生する事態は避けられない。
現在でも未納・未加入者は三百四十万人に達し、将来無年金となり「生活保護」の対象になる人が少なくないなど「国民皆年金」は形骸(けいがい)化しているのが現状だ。
税方式は、日本国内に一定期間居住して高齢を迎えた国民に一律に基礎年金を払うというもので、未納・未加入問題を一掃できるとして、民主党や自民党の一部、経済界などが求めている。
だが、問題はそれほど単純ではないことをシミュレーションは示している。仮に二〇〇九年度から過去の納付状況に関係なく一律に基礎年金を給付する場合、それに必要な財源は消費税率に換算すると現行の5%にさらに5%の上乗せになる。高齢者の増加に伴い追加財源は将来さらに増える。
これらを踏まえると、税方式では国民の納得を得るのは難しいと言っているのに等しい。結果的に社会保険方式を堅持したい政府・厚生労働省寄りの内容といえる。
政府はすべてのデータを公表すると言っている。税方式の問題点をことさら強調していないか、十分な検証が必要である。
〇四年の年金制度改正では、〇九年度までに基礎年金の国庫負担割合を三分の一から二分の一へ引き上げることが決まっており、二・三兆円必要だが、まだ財源確保のめどが立っていない。
社会保険方式と税方式の是非を議論する前に、こうした差し迫った問題を解決すべきだ。
そのうえで現行方式と税方式のいずれを選択するのか、両者の長所を取り入れた方式がないのかを検討すべきだ。財源として消費税か他の財源か、増税分を年金だけに充て、医療や介護に回さなくてもいいかという問題もある。社会保障全体の中でのバランスについて国民の合意を得る必要がある。
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