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NIKKEI NET

社説2 10回録画に補償金が要るのか(5/20)

 携帯音楽プレーヤーの「iPod」やハードディスク内蔵のDVDレコーダーに「私的録音録画補償金」を課そうという動きが進んでいる。デジタル放送は1度しか録画できず、視聴者に不便なため、10回に緩和する「ダビング10(テン)」の導入が決まった。見返りに権利者への補償を拡大せよというわけだが、本当に補償金は必要なのだろうか。

 著作権法で補償金制度が導入されたのは16年前のことだ。個人で楽しむ私的録音録画は本来、法律で認められているが、MD(ミニディスク)など音質が劣化しないデジタル機器が登場したことから、権利者の収入減を補う目的で設けられた。

 現在はMDやCD―R、DVD―Rなどの記録媒体と機器に対し、実勢価格の1―3%程度が補償金として課されている。デジタル機器の急速な普及に伴い、2000年のピーク時には40億円を超える補償金が権利者のもとにもたらされた。

 ところがiPodのように機器本体に記録し補償金の対象とならない機器が広がったため、補償金が約28億円にまで減少した。このため「補償金の対象機器を増やすべきだ」というのが権利者側の主張だ。

 一方、メーカー側は「iPodなどは時間や場所を変えて視聴しているにすぎない」と反論する。しかも有料ネット配信の場合はすでに利用料を支払っており、補償金は二重取りの可能性もあるという。

 デジタル機器には著作権を保護するための不正コピー防止機能もある。どんぶり勘定で補償金を課すより、「作品ごとに利用料を課すほうが現実的だ」という指摘もある。

 問題は6月2日に予定されたダビング10の導入開始が権利者側の反対で危ぶまれていることだ。北京五輪を前に店頭での販促材料にも使われており、新しい制度が始まらなければ、消費者を欺くことになる。

 文化庁は「補償金制度は将来なくす方向」としながら、iPod課金の法改正を検討している。権利者側はダビング10を人質に法改正を促す構えだが、録画制限と補償金の議論は別だったはずだ。放送局側は予定通りダビング10を開始し、文化庁はデジタル時代を見据えた新しい著作保護の仕組みを考えるべきだ。

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