医療安全対策やチーム医療などを進める上で欠かせない多職種間の協働を阻害しているといわれる 「ギルド」(職能団体)は、果たして「医療安全」の名の下に団結できるのだろうか―。医療の質・安全学会(会長・高久史麿自治医科大学長)が提唱した米国の活動「10万人の命を救えキャンペーン」の日本版に、日本病院団体協議会、日本医師会、日本看護協会も賛同したが、5月17日に開催された「医療安全全国共同行動」のキックオフ・フォーラムに、この3団体のトップの姿はなかった。(新井裕充)
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11の病院団体で構成する日病協の山本修三議長に代わってあいさつしたのは、日病協の元議長で全国公私病院連盟会長の竹内正也氏。山本議長が寄せたあいさつ文を読み上げた。
「このキャンペーンが、医療の安全文化の醸成に新しい風を吹き込むことに期待している。現在、医療関連死の死因究明と再発予防にかかわる新たな仕組みをつくるべく、真摯(しんし)な努力が行われているが、その仕組みとこのキャンペーンとは両輪となるものであり、患者の安全を守るために医療側が自らの責任を果たしていこうとする意思を行動で示すもの。医療の信頼性をさらに高める行動になり得るものと確信している」
日病協は、厚生労働省が創設を検討している「死因究明制度」の第三次試案について、「原則賛同」との見解を表明しているが、制度の各論部分では加盟団体の意見が一致していない。特に、医療事故の原因を調べる「医療安全調査委員会」の運営方法について異論がある。
11の加盟団体の傘下にある病院は約6500に上り、全国約8800病院の7割以上を占めている。このため、厚労省は日病協の合意を取り付けて、同委員会をめぐる議論に一気に片を付けたい考えだ。
死因究明制度の創設に協力している日医からは、欠席した唐澤祥人会長に代わって宝住与一副会長があいさつ。「今こそ医療者が職種や立場の壁を越え、一致協力して取り組むべき」と述べ、今回のキャンペーンを全面的に支援する姿勢を示した。
「今回の取り組みが、特に入院中の予期せぬ死亡をなくすことの重要性にかんがみ、起きれば深刻だが高い確率で防止できる『有害事象』の発生を予防し、有害事象から患者の命を守り、医療がより安全に行われる仕組みづくりを進めるため、地域の医療機関がお互いに協力しながら医療の質と安全の確保・向上に役立つことを願う」
厚労省の第三次試案に賛成している日看協は、久常節子会長が寄せたあいさつ文を井部俊子副会長が代読した。久常会長は、医療安全に向けた日看協のこれまでの取り組み(医療安全管理者養成研修など)に触れた上で、次のように感想を述べている。
「職種や立場を超え、医療を担う病院とそれを支えるさまざまな団体が協力して取り組むことは大変意義深い」
これまで日看協は、医師と看護師の役割分担について「看護職の裁量権拡大」を求めている。特に、「勤務医の負担軽減」という観点からの拡大論を否定し、「看護の専門性」という観点からの拡大を主張している。舛添要一厚生労働相は「安心と希望の医療確保ビジョン会議」(3月19日開催)で、個人的な意見と断った上で次のように述べている。
「看護師さんの集まりのトップと議論すると、『敵は開業医だ。医者がいるからわたしたちは駄目なんだ』という話になってしまう。それぞれの職能団体の要望事項をまとめるのはいいが、患者の視点で見たら医師会と看護師(の)会が対立している。その割を食らうのは患者だ」
この日のフォーラムで講演した日病協の大井利夫氏(日本病院会副会長)は、医療安全に対する病院長のリーダーシップを強調し、次のように述べている。
「果たして日本でどれぐらいの数の病院が参加するのか、大変な不安を感じている。リーダーシップを取る病院内の医師が指導的に行わなければ、できないのではないか」
更新:2008/05/19 21:35 キャリアブレイン
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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。