福岡県筑前町で06年10月にいじめを苦にして自殺した森啓祐君(当時13歳)の両親が手記「啓祐、君を忘れない」(大月書店)を出版した。自殺直後の学校とのやり取りや、再発防止を求めて奔走する日々をつづっている。
「遺族になるとほんとうにたくさんの苦しみがうまれて、今までと180度世界が変わってしまうのです。こういう家族になってほしくないということをみなさんに伝えていきたい」。遺族の願いは再発防止。その強い思いが本を書き上げさせた。
啓祐君が亡くなって以来、2人は何も気づけなかった自分たちを責めてきたという。直後は、息子が自殺しているのを発見した午後8時過ぎになると(動悸どうき)が起き、不安にさいなまれた。一周忌が終わったあとは「季節の花や線香のにおいがあの日を思い出させた」と記している。
「生きかたがわからなくなってしまった」という母美加さん(37)だが、同じく子供をいじめで亡くした親たち、講演後にもらった励ましの手紙、当時小学生だった2人の弟を温かく包んでくれた教諭、多くの人との出会いが少しずつ前へ向かわせたという。
「やさしい子供が死に追いつめられてしまう、それはなぜかということを考えてほしい」。本の最後で、こう訴える。今両親は、子供に学校で何があったか学校と情報を共有する「知る権利」の整備を国に求めて上京したり、全国各地で講演するなど、活動を続けている。二度と同じ思いをする家族が出ないように。
本は46判、160ページで1200円。【高橋咲子】
2008年5月17日