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空港なし・山梨に熱視線 期待は横田の軍民共用化
甲信越で唯一、空港のない山梨県。県民の多くが2時間以上かけて羽田空港を利用する。ただ、来年3月に開港予定の「富士山静岡空港」(静岡県島田市と牧之原市)は山梨から利用客を獲得しようとPRを強化し、昭和40年開港の「信州まつもと空港」(長野県松本市と塩尻市)も山梨に熱い視線を注ぐ。山梨県が最も望む米軍横田基地(東京都福生市など)の軍民共用化も協議が続けられている。空港の利便性向上が期待されるなか、山梨をめぐる動きを探った。(花岡文也)
「駐車場が無料でマイカーで行くことができ、新しもの好きな山梨県民にとって便利な空港になりそう」。今月2日、山梨県民対象の「富士山静岡空港現地見学バスツアー」に参加した甲府市千塚の美容師、長田一枝さん(65)は期待を込めてこう話す。
空港設置者の静岡県は県内向けのバスツアーを今年度5回、新年度も3回計画するが、県外向けは今回のツアーが最初で最後。山梨県と愛知・豊橋から参加者を募ったところ山梨から1871人の応募があり、うち 135人が当選。倍率は13.9倍で豊橋(12.1倍)を上回る人気となった。山梨の当選者はツアー当日、工事現場などを回り建設中の滑走路や管制塔を熱心に見学した。
空港は反対運動を乗り越え、建設の話が持ち上がってから20年越しでの開港となる。札幌(新千歳)、福岡、那覇の国内3路線とソウルへの就航が決まり、鹿児島やアジア各国への就航も交渉中。開港後1年間の利用者見込みを国内、国際線で計 138万人と設定した。そこで必要なのが利用者獲得で、静岡県は「隣県からもなるべく多く呼び込みたい」。バスツアーの案内チラシでは、羽田2500円、中部国際1500円と他空港の1日駐車場料金を示し、メリットを強調した。
また、静岡県や神奈川県と平成18年から「3県サミット」を設け、知事間交流を行う山梨県も「昨年、富士山などを中心にした観光客誘致で知事3人が同意した。静岡の空港を使って山梨への観光を促進したい」と意欲を示す。
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昭和40年に開港し、平成6年に滑走路拡張などのリニューアル工事を終えて「ジェット化開港」をした信州まつもと空港も、山梨からの利用客増加を期待する。
空港の利用促進協議会は毎年3月、山梨県の行政機関や旅行会社をミス松本らを伴って回る「山梨キャラバン」を行い、まつもと空港のPRを図っている。今年も3月末に予定し、長野県は「山梨とは中央道やJR中央線で一直線に結ばれているアクセスの良さをPRしたい」と話す。
国土交通省が平成17年10月に日を定め、国内線を運航するすべての航空会社を通じて行った「航空旅客動態調査」で、信州まつもと空港を平日に利用した人の現住所は、長野県内の48.4%に続いて山梨県が 3.1%と多かった。しかし、実数でみると山梨県民は8人で、羽田空港を利用する 343人には遠く及ばない。松本からは大阪(伊丹)に毎日1便、札幌(新千歳)に週4便、福岡に週3便が運航されているが、山梨県関係者は「車で約1時間半で到着し無料駐車場もあるのに、PRが足りない」と指摘。方法次第で、空港のない山梨県民のハートをつかむ可能性を秘めているという。
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山梨県が空港に関して国への要望で最も力を入れるのは、米軍横田基地の軍民共用化だ。この問題は日米両政府間で平成18年10月、1年以内に検討する予定で協議が始まったが結論に達せず、引き続き協議することになった。それでも山梨県は「最も近い空港になり、現状で甲府から鉄道で1時間20分、車で1時間25分で行けるメリットは大きい」(知事政策室)と期待感を示す。
横田基地の共用化をめぐっては東京都も、東京西部に「多摩シリコンバレー」の産業拠点を築く構想を描くほか、周辺への経済効果を年間約1600億円と推計し、日米両国に強く共用化を要請。昨年12月都議会で石原慎太郎知事は「米軍側が言っているいくつかの障害は、クリアできる調整可能な事項。国の関係省庁と結束し、粘り強く協議を続ける」と答弁した。
山梨県の横内正明知事も山梨の発展につながるとして、軍民共用化を後押し。昨年10月には県内経済団体を集め、東京都の担当者との意見交換を行った。11月に経済団体は国に軍民共用化を要望することを決議した。
山梨県知事政策室はさらに、「『横田空港』が実現すれば、アクセスするJR中央線などの利便性向上に取り組む機運も盛り上がり、相乗効果は大きい」と指摘する。山梨周辺で沸き上がってきた空港の活性化。観光面に限らず、企業誘致や農産物輸出などさまざまな課題への波及効果は計り知れない。