![1 1](/contents/001/500/840.mime1) |
パンデミックの襲来は1世紀に平均3回 |
インフルエンザパンデミックは、過去の統計から1世紀に平均3回発生しています。また、インフルエンザパンデミックの流行の波は1つの国や地域では2〜3回訪れます。流行の波は一国あたり8週〜18週間つづき、全世界を1〜2年間席捲します。その間に世界中で数百万人〜1億5000万人の死者が出ると予測されています。
インフルエンザパンデミックがいつ起こるかは予測できません。しかし、確実に言えることは、インフルエンザパンデミックは地震と同じように必ず起こり、全人類が避けて通ることのできないものだということです。
歴史を振り返れば、インフルエンザパンデミックは20世紀にも3回発生しています。1918年のスペインインフルエンザ、57年のアジアインフルエンザ、68年のホンコンインフルエンザがそうです(図1)。
![図1:20世紀のインフルエンザパンデミック](/contents/001/500/841.mime1)
図1:20世紀のインフルエンザパンデミック
スペインインフルエンザは、2%の致死率でした。一方、アジアインフルエンザ、ホンコンインフルエンザの死亡率は0.2%で、スペインインフルエンザの死亡率の10分の1。死亡率が高いスペインインフルエンザは「シビアケース」、アジアインフルエンザ、ホンコンインフルエンザは「マイルダーケース」と呼ばれています。
20世紀に起きたこの3回のインフルエンザパンデミックに共通することは、インフルエンザウイルスが弱毒型だったということです。ところが、これからお話する鳥インフルエンザ(H5N1)は強毒型のウイルスなのです。つまり、現在のH5N1が変化した新型インフルエンザが全世界に蔓延した場合は、シビアケースと呼ばれるスペインインフルエンザの致死率 2%では、とても済まない可能性が十分にありえるのです。
では、鳥インフルエンザ(H5N1)の致死率とはどれくらいでしょうか。
![2 2](/contents/001/500/843.mime1) |
パンデミックへのカウントダウンははじまっている |
2-1. 若年層をねらうウイルス
鳥インフルエンザ(H5N1)はアジアとアフリカを中心に各国に広がっており、WHOが2007年6月25日に発表したところでは確定患者数は315名、うち死亡者は191名、致死率は61%にのぼります。
しかし、致死率61%という数字は全年代に共通したものではありません。鳥インフルエンザ(H5N1)の特徴は、40歳以下の感染・死亡者が圧倒的に多いということです。10歳から19歳の致死率はじつに75%にものぼります。これは非常に特殊なパターンであると同時に、1918年のスペインインフルエンザとまったく同じパターンです。
![図2:年齢別感染者数](/contents/001/500/844.mime1)
図2:年齢別感染者数
この年代別感染傾向に関して、WHOが2006年6月に疫学的なレポートを発表しました。それによると、人類が免疫を持っていないウイルスが出現した場合にこのような感染傾向を示すといいます。ウイルスが人体に入ったとき、白血球はウイルスを攻撃するためにサイトカインという物質を出しますが、サイトカインは過剰に産生されると逆に肺や腎臓、肝臓などの組織も破壊してしまいます。そして、免疫力が強い若年層ほどサイトカインが多量に分泌されるため、致死率が高くなるのです。
2-2. 新型インフルエンザウイルスの脅威
いまもっとも懸念されているのは鳥インフルエンザウイルスがなんらかの要因で変異し、人から人へ容易に感染する新型インフルエンザウイルスが出現することです。それは、インフルエンザパンデミックが起こる危険性が大幅に増したことを意味します。
新型インフルエンザウイルスが出現する可能性としては、つぎの3つが考えられます(図3)。
- 人の体内で鳥インフルエンザウイルスと人間のインフルエンザウイルスが結合して変異。
- 鳥インフルエンザウイルスも人間のインフルエンザウイルスも受け入れる豚の体内で2つが結合して変異。
- 人の体内で鳥インフルエンザウイルスが独自に変異。
![図3:鳥インフルエンザと新型インフルエンザの関係](/contents/001/500/845.mime1)
図3:鳥インフルエンザと新型インフルエンザの関係
2006年6月、WHOはパンデミックフェーズを新たに定義し直しました(図4)。
![図4:WHOパンデミックフェーズ](/contents/001/500/846.mime1)
図4:WHOパンデミックフェーズ
現在、鳥インフルエンザの状況はフェーズ3にあたります。鳥から人への感染がまれに起きるが、人から人への感染はないという状況です。しかし、フェーズ4からフェーズ6までは非常に進行が早く、WHOはその間を1〜3ヵ月と見ています。さらにWHOはフェーズ間のスキップもあると言います。つまり、フェーズ4になったと思ったら、あっというまにフェーズ6になる可能性もあるわけです。
SARS(重症急性呼吸器症候群)は発症してから他人に感染しますが、インフルエンザは発症前日から感染力があります。インフルエンザに発症したと分かったときには、その前日に一緒にいた人にうつしている可能性があるということです。さらに症状が消えてからも成人で7日間、小児の場合は最長21日間の感染力があります。ですから、SARSに比べて封じ込めが非常に難しいのです。
加えて、鳥インフルエンザに有効なワクチンは現在のところありません。有効な新型ワクチンをつくるには6ヵ月が必要だといわれています。残念なことですが、現時点で鳥インフルエンザを封じ込める決め手はないのです。パンデミックフェーズ3――。われわれは現在、まさにボーダーライン上にいるのです。
![3 3](/contents/001/500/849.mime1) |
首都直下型地震よりも多くの死者が…… |
フェーズ6に移行して新型インフルエンザパンデミックが起きた場合、どれほどの人的被害が出るのでしょうか。図5は公的機関が発表している予測です。
![図5:公的機関の予測](/contents/001/500/850.mime1)
図5:公的機関の予測
東京都は、東京都内の死者を1万4000人と想定しています。首都直下型地震で想定される死者は1万1000人〜1万3000人。新型インフルエンザパンデミックでの都内の想定死者数は、首都直下型地震のそれよりも多いのです。
では、国は新型インフルエンザに対してどのような行動計画を立てているのでしょうか。国内でフェーズ4以降の症例が確認された場合の行動計画として、厚生労働省が「新型インフルエンザ対策行動計画」を公開しており、図6はその抜粋です。
![図6:行政の行動計画](/contents/001/500/851.mime1)
図6:行政の行動計画
また、3月26日に発表された「新型インフルエンザ発生初期における早期対応戦略ガイドライン」には新型インフルエンザに感染している患者が発見されたら、その患者がウイルスを振りまいていたと考えられる全市町村を原則的に封鎖するという主旨のことも書かれています。しかし、新型インフルエンザが東京都内で確認されたらどうでしょう。たとえば、東京駅の近くで新型インフルエンザの感染が確認されたとします。東京駅から半径10kmならば環状7号線の内側、30kmだったら国道16号線の内側をすべて封鎖することになります。
新型インフルエンザ発生当初にこのような規制ができるでしょうか。新幹線、在来線、飛行機などの交通機関をすべてストップするなどという措置が早急にできるとは考えにくい。万が一東京などの大都市で新型インフルエンザが発生したら、あっという間に国内全土に蔓延する――。残念ですが、それが現実的なシナリオだと思います。
その最悪のシナリオに備え、私たちはいま企業としての準備をしておかなければなりません。従業員をリスクにさらさないために、近隣の人びとをリスクにさらさないために、そして最悪の状況のなかでも事業を継続するためには、フェーズ3のいまこそ準備をはじめなければならないのです。
![4 4](/contents/001/500/852.mime1) |
パンデミックをともに生き抜くために |
私たち富士ゼロックスでは、2005年12月のR&E会議(リスク&エシックス会議)で基本方針を定め、全関連会社と連携してパンデミックに対処する体制をつくりあげてきました。その過程を通じて私たちが作成した「計画与件」が図7です。
![図7:計画与件(公的機関の数値使用)](/contents/001/500/853.mime1)
図7:計画与件(公的機関の数値使用)
図8をご覧ください。これは、災害が影響を与える範囲を示したもの(リスクシナリオ)です。
パンデミックはほかの災害と違って人的な被害だけです。ハードにもネットワークにも、インフラにもなんの被害もありません。
![図8:災害が影響を与える範囲(1)](/contents/001/500/854.mime1)
図8:災害が影響を与える範囲(1)
ところが、リソースを動かすのはすべて人ですから、人員不足によって操業率の低下や操業停止が生じる危険があります(図9)。
![図9:災害が影響を与える範囲(2)](/contents/001/500/855.mime1)
図9:災害が影響を与える範囲(2)
また、パンデミックはほかの災害とは比較できないほど広範囲な地域に被害を与えます(図10)。つまり、パンデミックには地震対策とはまったく違う手を打たねばならないということです。
![図10:災害が影響を与える被害地域](/contents/001/500/856.mime1)
図10:災害が影響を与える被害地域
こうしたリスクシナリオの相違と計画与件をもとに、私たちが作成した「新型インフルエンザパンデミック対策基本方針」と「業務継続検討時のポイント」が図11、図12です。
![図11:富士ゼロックス新型インフルエンザパンデミック対策基本方針](/contents/001/500/857.mime1)
図11:富士ゼロックス新型インフルエンザパンデミック対策基本方針
![図12:業務継続検討時のポイント](/contents/001/500/858.mime1)
図12:業務継続検討時のポイント
富士ゼロックスでは、国外でフェーズ4の宣言がなされたと同時にバーチャル対策本部を立ち上げます。パンデミックの場合は、ある一定の場所に対策本部を置くことが難しく、人との接触にも注意しなければなりません。そこで、おもに電話とPCで連絡を取り合って対策を講じるチームが必要となります。その対策本部が核となり、全社員の感染・回復状況の把握、事業所閉鎖の決定、事業継続チームの発足などを進めていきます。
ある事業所で感染者が確認された場合は、ほかの従業員はもちろん近隣の人たちにもリスクがおよばないように事業所をすみやかに閉鎖します。そして在籍者全員を自宅待機とし、ほかの場所への移動は10日間禁止します。感染場所をすばやく閉鎖することが社員と会社を守ることになるのです。そして、事業所閉鎖などの情報は社内外に積極的に開示し、情報のブラックアウトをつくらないようにします。
感染防止と同時に進めるのが、回復者による事業継続チームの発足です。一度感染して回復した人は二度とかかりませんから、回復者を組織して必須業務の継続を図ります。
人命を守ること、感染を防止すること、情報を開示すること、そして事業を継続させること――。これが、私たち富士ゼロックスが考えるパンデミック対策です。
最後に、私たち一人ひとりができるインフルエンザパンデミック対策をご紹介します。
- 新型インフルエンザの重症化を防ぐために通常インフルエンザワクチンの接種を受けておく。
- 飛沫感染を予防するためにマスクを着用する。
- こまめに手を洗う。
- 頻繁にうがいをする。
新型インフルエンザに有効なワクチンがない現在、私たちにできる予防策はこれら4つです。しかし、この4つを守るだけでも感染率は大きく違います。みなさん、どうかこの4つを守ってください。そして、インフルエンザパンデミックが起きてもあわてないように、いまから準備することが必要だと、弊社は考えています。
|