11年7月にアナログ放送から地上デジタル放送(地デジ)に完全移行されるが、山間部などで地デジが見られない地域の発生が懸念されている。例えば、府南部に位置する和束町と笠置町では、移行した際にデジタル波の受信状況が悪いことが既に判明。厳しい財政状況のなか対応を迫られている両町だが、それぞれ方針は異なっている。両町の現状に迫った。【藤田健志】
■難視聴地域
両町では、関西電力高圧線による電波障害を受ける影響で、過去にテレビが二重、三重に映ることがあった。そのため、約30年前に関電の補償工事として共同受信施設が整備され、同軸ケーブルが和束町約1600世帯、笠置町約700世帯のほぼ全地域につながっている。
和束町は昨年6月、地デジ移行にあたり、測定用アンテナを使って、町内94地点で地デジが受信可能かどうかの調査を実施した。その結果、京都から発信されるKBS京都とNHK京都放送局の2局は全地点で受信できず、他の民放各社(大阪局)などは32地点でしか受信されないことが分かった。これでは約4割の世帯しかテレビを見ることが出来ないことになる。
笠置町でも同様の調査で、京都から発信される局は映らず、大阪局も約7割の地域でしか映らなかった。総務省近畿総合通信局(大阪市)によると、両町は山間地域で谷沿いに集落があるなど、電波の届かないことなどが原因だという。
■今後の対応
地デジ受信のためには、現在ある関電の共同受信施設に新たにデジタル放送用のアンテナを追加するなどの改修が必要。しかし、デジタル波は電波障害が起きにくいため、関電は「障害がなければ補償の必要自体がなくなる」という見解だ。このため、自治体による何らかの対応が求められている。
共同受信施設の改修で対応する予定の笠置町は、改修にかかる費用を約4億円と概算。「補助金や過疎指定地域なので過疎債などで充当したい」と考えているが、改修後の維持管理費の費用について新たな予算計上は避けられそうにない。どのくらい必要か、町は「まだ算定していない」としている。
一方、和束町は、NHKが09年に町内に基地局を設置するため、約6割の世帯でNHKと民放各社が受信できるようになるという。しかし、山あいの集落など約2割の世帯では全くテレビを見ることが出来ない。町は「全世帯が視聴できるために財政負担するかどうか、住民の意向を確認したい」と、慎重な姿勢を示している。
■「必要だけど」
両町は昨年8月、地デジに関する住民アンケートを実施した。和束町は1641世帯に配布し回収率は63%。笠置町では706世帯にアンケートを配布、回収率は37%。
「共同受信施設整備が必要」という回答はどちらも高率で、和束町68%、笠置町74%を占めた。一方で、住民の負担については否定的な回答が多く、和束町では8・7%は「有料なら個人でアンテナをたてる」と答え、「必要ない」も12・2%だった。笠置町でも、希望する改修負担金は「2万円未満」が42・8%だった。
近畿総合通信局有線放送課は「共同受信施設は住民の持ち物になるので、自治体が住民の意向をくむ必要がある。必然的に対応が異なってくることも有り得る」と話している。
毎日新聞 2008年5月18日 地方版