余録

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余録:クラスター爆弾

 黄色い紙か袋が見えた。滑走路脇のやぶをかき分ける。何かが突然、爆発した。両手と両足がちぎれ飛ぶ。耳が聞こえない。目も見えない。自分は死んでいく。そう感じながら病院に運ばれた▲先月、来日したセルビアの不発弾処理技術者、ブラニスラン・カペタノビッチさんは00年11月の体験を語った。北大西洋条約機構軍が爆撃した空港を調べていた。爆発したのはクラスター爆弾の不発弾だった▲多くの子爆弾が広い範囲に飛び散る。不発弾が地雷のように残り市民を殺傷する。黄色いリボンがついた不発弾をおもちゃと勘違いして拾い、命を失う子供が絶えない。死傷者の98%が民間人だ▲クラスター爆弾の禁止条約を作る国際会議が19日、アイルランド・ダブリンで始まる。昨年から続く軍縮運動「オスロ・プロセス」の大詰めだ。市民を見境なく殺す非人道的な兵器を人間は作り、使ってしまった。でも、人間はそんな兵器を廃止することもできる▲自衛隊がクラスター爆弾を持つ日本も会議に参加する。だが、政府は「海岸線を守るのに必要だ」と主張し、廃棄に踏み出そうとしない。条約案にもさまざまな例外条項を設けるよう求めた。抜け穴を探す抵抗勢力となるより、率先して強力な禁止条約を推進できないものか▲「標的にした軍事施設を正確に破壊せず、まわりの住民を傷つける。モンスターのようにひどい兵器だ。日本人が体験した原爆と同じように罪のない市民を苦しめる。それがクラスター爆弾だ。すべての禁止を願う」。カペタノビッチさんの思いは、理不尽な被害者をこれ以上出さないという世界の人々の決意となってダブリンで実を結ぶだろう。

毎日新聞 2008年5月18日 0時05分

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