「食料不安」をあおる活字が目立つ。世界の食料需給は「逼迫(ひっぱく)する可能性がある」と農業白書も書く。「飽食」から「危機」への変わり目に、農政や食生活のかじも大胆に切らねばならない。
「食に対する消費者の信頼を揺るがす事件の頻発」。農業白書は冒頭で、昨年夏から続発した賞味期限や消費期限、原産地表示などの改ざん事件を振り返る。消費者の食への「不信」はピークに達した感がある。
国際的には、中国経済の急成長、米国のバイオ燃料増産政策に、地球温暖化の進行による農業生産の変動が重なって、「食料争奪戦」が拡大を続けている。アフリカの飢餓はより深刻になり、「食糧安保」は北海道洞爺湖サミットでも、主要なテーマにされる。
カロリー換算の自給率39%、先進国最低の日本にとって、食料不足は「対岸の火事」ではない。小麦価格の高騰で即席めんやパンが再び値上げされ、店頭からバターが姿を消していく。外食店には「価格改定」の張り紙が目立つ。「不安」も高まる一方だ。
これまで何度農政改革がうたわれたことか。だが主に、コメの生産調整を軸にした「農家」や「農業」の改革で、消費者対策は二の次にされてきた。だが「潮目が変わった」と、関係者はしばしば口にする。「食と農」は、ここへ来てようやく国民的関心事になった。国民の不信と不安を取り除くのも、農政の責務である。
自給率を45%にするという数値目標は結構だ。だが、国内のどこで、何を、どれだけ増やすのか、具体的なその手順が白書からは読み取れない。100%自給は実現困難だ。だとすれば、足らないものをどこから、どれだけ補えるのか、その際安全は確保されるのか−。さまざまな具体策が示されないと、不信や不安はぬぐえない。
自治体の対応も改革を迫られる。宮崎県は、温暖化が県の農業に及ぼす影響を予測し、安定生産を維持するための研究に乗り出した。地域の風土に適し、食文化も取り入れた生産、消費のきめ細かい戦略が、自治体単位で必要だ。
生産者には、消費者のニーズをつかみ、よりよい“製品”を自ら売り込む経営感覚が求められる。消費者には、健康や環境に優しい産物を正当に評価する選択眼や、地産地消を支える姿勢が必要だ。
不信と不安を乗り越えて総合力を発揮しないと、「食料危機」はやがて現実のものになる。
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