国内航空会社は航空機の整備を子会社や海外企業に委託する傾向を強めている。コスト削減が主目的だが、一方で品質を不安視する声も強い。自社技術力の維持のためにも海外委託は減らしたい。
客室内の一部の非常灯が点灯しない状態で運航していたり、ブレーキ装置を支える金属棒の先端部分が脱落して火花を散らしながら着陸するなど、このところ利用客を不安にさせる航空機トラブルが目立つ。
いずれも整備や点検ミスによるものとみられるが、放置すれば重大な事故につながりかねない。
「空の安全」は管制官やパイロット、客室乗務員、整備士、地上作業職員らさまざまな職種の人々によって確保されている。航空機の安全は機種や使用年数などをもとに行う定期・不定期の整備が重大な鍵を握っている。
機体整備は通常、空港で行う発着時の運航整備と格納庫に入れて行う点検・重整備とに分かれる。大手航空会社は保有機数が多いから効率的な作業を行うために自社だけでなく、関係子会社や中国やシンガポールなどの航空機整備専門会社(MRO)に整備を委託するケースが増えていった。
整備の海外委託は実は世界的な傾向でもある。日本航空と全日本空輸の海外整備比率は約三割だが重整備に絞ると大幅に上昇する。
航空業界は格安運賃航空会社(LCC)の台頭もありコスト競争力の強化を強く求められている。各社が海外委託に頼らざるをえなかった事情は理解できる。
MROは国土交通省の認定を受け航空機メーカーの基準にも適合しているが、管理監督の目は緩くなりがちだ。それが品質の差に出る。たとえば客室の美観では日本側の求める美しさの水準になかなか到達しないことがある。その差がボルト一本の締め付け具合などに現れる可能性がある。海外リスクの高さを指摘する声は強い。
二〇〇六年度「安全報告書」によるとシステムの不具合など放置すると事故を誘発しかねない「安全上のトラブル」は日航で百六十件、全日空で百十二件あった。
海外整備のミスによる大きな不具合はまだ報告されていないが、これ以上海外委託を増やすべきではない。来年から大手各社は新型機を大量に導入する。自社整備力の強化が不可欠であり、技術伝承のためにも国内外のバランスを考えた整備体制を構築すべきだ。
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