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【主張】農業白書 農政にこそ改革が必要だ
日本農業の現状分析と将来展望を示す今年の農業白書がまとまった。世界的な食料需給の逼迫(ひっぱく)で、すでに4割を切った日本の食料自給率に、今年の白書は例年以上に危機感を募らせている。
だが、それに対する肝心の政策になると途端に歯切れが悪く、新味ある提言はほとんど見られないのが率直な印象だ。
中国など新興国の経済発展、途上国の人口増加などで、世界の食料需要は増大の一途だ。世界人口は現在の66億から今世紀半ばには92億人となり、穀物需要は1・6倍に跳ね上がる見通しという。アフリカなどの最貧国では暴動で死者まで出ているありさまだ。
温暖化による砂漠化の進行に加え、バイオ燃料ブームも国際食料価格を押し上げている。白書は、「食料の安定供給システムの確立」を急がねば、輸入食料に依存する日本は深刻な危機に直面すると訴えるのである。
その基本的認識は間違いではなかろう。だが、重要なことは、それでは日本としていかに対応すべきかという確固たる政策だ。
白書が指摘する基本政策の大きな柱は、ひとつは農地の集約化・大規模化であり、ひとつは担い手農家の育成・支援による日本農業の生産性向上である。食品流通の在り方も含めた日本人の食生活全体の見直しについても多くを割いて言及している。
だが、そのいずれについても思うような成果を挙げていないのが実情だ。基本方針は妥当でも、具体的な政策では矛盾点が多く、全体としては整合性を欠く結果になっているからだ。
農地の集約化が進まない理由のひとつには、一方でコメ余り対策としての休耕補償や事実上の耕作放棄地に農地の優遇税制を適用し続ける矛盾がある。これでは耕作意欲を失った所有者であれ、手放すことは躊躇(ちゅうちょ)する。
真にやる気のある農家を育てるのが「担い手づくり」政策であるはずだが、自由な農地の貸し借りすらできない現状では意欲的な経営は育つまい。農業従事者の高齢化は深刻で、いまや65歳以上が6割を占める。夢の持てない仕事に若者が関心を持てないのは至極当然であろう。
現状の危機感を訴えるのもいいが、白書に期待されるのは実現可能で整合性のある政策展望だ。抜本改革が必要なのは日本農政の在り方そのものではないか。