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NIKKEI NET

社説 日本人も外国人も納得できる制度早く(5/19)

 人口の減少と少子高齢化により国内の働き手が減るなかで、外国人の受け入れを増やす必要があるという声が増えている。政府や自民党も具体的な議論を始めた。

 介護、看護など人手不足感が強い分野では、外国人の助けを借りざるを得ない。だが国内雇用への悪影響や日本社会との摩擦を避けるとともに、来日した外国人を失望させないことが肝心。受け入れる分野・人数や、教育を含む支援とその財源負担などの問題をよく考え、受け入れの枠組みを早く決めるべきだ。

介護、看護に不足感

 いま社会問題になっているのが介護職員と看護師の不足だ。厚労省の推計では今年、看護師が3万7000人足りない。介護職員は2004年からの10年間で新たに40万―60万人必要だという。約200万人の介護職員のうち1年で20%強が離職している現実も考えれば、実際の人員不足はもっと深刻であろう。

 ほかに農業、森林保全や水産加工、機械加工などでも受け入れたいという声が自民党や経済界にある。

 長期的には、人口が減るうえ、高齢化が進み、政府推計によれば、30年に65歳以上が総人口の32%に達する。様々な分野で働き手が足りなくなるとみられる。

 いまの出入国管理法は研究、技術、留学など27種類の在留資格を認めている。高度な専門職を中心とし、国内の雇用への影響を考えて単純労働は認めない建前である。

 このため外国人の介護職員は原則受け入れていない。看護師は日本の資格を取れば働くのを認めるが、7年後には母国に帰す。2国間の経済連携協定で決めた看護師、介護福祉士の受け入れも、日本看護協会などの慎重論もあって、少数のうえ、条件が厳しい。インドネシアからの看護師は「母国の資格を持ち2年以上の経験があり、来日後3年以内に日本の資格も取る」必要がある。

 この人材不足の問題を考えるうえでの前提は国内人材の活用を優先することだ。家庭に入った看護師ら女性の再就職支援、高齢者の雇用促進、フリーターの再訓練などを推し進めるべきだ。介護職員不足の一因が給料の低さにあるなら、介護保険制度を見直し処遇を改善する必要がある。少子化対策を通じ日本の子どもを増やすことも求められる。

 それらの対策を実施しても人手不足が明らかな分野で、人数を管理しながら外国人を受け入れるのが妥当ではなかろうか。当面は介護、看護の分野で資格取得支援を含む受け入れの体制をつくることが急がれる。

 それがアリの一穴となってほかの職場でも日本人の雇用が脅かされる、といった労働組合などの主張は、介護、看護現場の厳しい現状を無視していると言わざるを得ない。

 そのほかの分野は個別に考えるしかない。競争力の回復が困難な労働集約的な産業で、外国人を低賃金で雇い事業を維持するようだと産業構造の高度化を妨げかねない。半面、食料自給率の向上が課題の農業では、担い手の高齢化もあり、外国人の協力は必要かもしれない。

 もう一つ大切なのは外国人の受け入れ方である。政府は高度専門職の例外としてブラジルなどから日系人を多数、受け入れたが、日本語教育や職業訓練を怠ったため、職に就けず犯罪に走る若者も相次いだ。外国人の多い地方自治体が今、そのツケを払っている。日本語教育や職業訓練の充実は大事だ。その財源対策も考えておく必要がある。

環境整えて良い人を

 また「研修・技能実習」の名目で中国などの若者を極端な低賃金で単純労働に使い、海外から批判されている問題も無視できない。単純労働を部分的に受け入れるなら最低賃金を守るなどきちんと対応すべきだ。

 政府の経済財政諮問会議は高度人材(いま在留資格上は約15万人)を倍増させるための具体策を検討中だ。介護職員も高度人材とみなして受け入れる方針。それは良いとしても、高度人材の美名の下に介護職員を受け入れて、低賃金労働を強いるような結果となっては、国際的に非難されるだけである。

 世界では今、人材の取り合いになっている。待遇が悪ければ良い人は来ない。良い人材をほかの国に取られないためにも外国人に評価される環境の整備を急ぎたい。その点で短期の出稼ぎとしてでなく永住を前提に受け入れることも検討課題だ。

 一方、日本企業が外国人を差別的に扱うため優秀な人が就職したがらないという問題もある。より長期の視点からは、外国人を受け入れて経済大国を維持するのか、それとも豊かで中規模の国を目指すかという選択も必要だ。外国人材の受け入れに関して議論すべき事柄は実に多い。

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