世界の七不思議で名高い「バビロンの空中庭園」は、こんな景観だったのだろうか。岡山市立オリエント美術館の屋上は緑化のため花や木が植えられている。
その一角の小さな畑で古代種のエンマー小麦が実りを迎えた。約一万年前にシリア・トルコ国境地帯で栽培が始まり、メソポタミアやエジプトに広まった。ツタンカーメンやクレオパトラが、エンマー小麦のビールを飲んだ記録も残る。
古代オリエントの食文化を解明しようと、同美術館友の会が、古代ビールの再現に取り組む酒造会社から種をもらい、栽培を始めたのは三年前だ。地中海と似た岡山の気候に合うらしく、植えた後はほとんど手間いらずという。
収穫した後は、パンを焼いて味わうことにしている。過去二回の作業では、復元した古代の石臼を製粉に使ったが、効率が悪くひと苦労だった。殻が固くて脱穀が難しいのも難点だ。古代は青いままで収穫したらしいと分かり、今年はその方法で試すという。すべてが考古学の実験になる。
水を確保し食糧を安定供給することが、古代王朝最大の課題だった。オリエント文明の繁栄を支えたエンマー小麦だが、いま世界の小麦の需要は増すばかりである。
パンなど小麦を原料とする食品が値上がりしている。世界の食糧事情に思いが広がる。