自民党の「衆参両院を統合し、一院制の新『国民議会』を創設する議員連盟」が発足した。参院で野党が過半数を占める「ねじれ国会」が招いた政治の停滞の解消を目指すとする。一方、参院の民主党会派に属す議員有志は「参院のあり方に関する勉強会」を始めた。
「衆院のカーボンコピー」「第二衆院」といわれ、無用論がささやかれている参院である。二院制の変更は憲法改正が必要で、当面実現できるものではないが、「ねじれ国会」を契機とした参院改革論議の盛り上がりは歓迎すべきであろう。
一院制を目指す議連の設立総会には、衆参両院の議員四十八人が出席し、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三の首相経験者三氏が顧問に就任した。代表世話人の衛藤征士郎元防衛庁長官は「今国会では参院に送った法案が何週間もたなざらしにされた」と指摘し「責任政党として衆参両院の在り方を検証し、結論を導きだすべきだ」と強調する。
今後の取り組みは、諸外国の制度などを参考にするとともに「国民会議」を設置して一院制の在り方などを幅広く議論することにしている。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は、自民党の議連発足について「自分たちの考えが通らないから制度を変えろというのは、ご都合主義で身勝手な発想だ」と批判する。「参院のあり方に関する勉強会」は、参院無用論を意識し、参院の存在意義を訴える狙いがあるのだろう。
「ねじれ国会」は、日銀総裁などの国会同意人事で、政府案が参院本会議で野党の反対多数で否決され、いまだに副総裁の一人は決まっていない。揮発油税の暫定税率を復活させる税制改正法案などでは、与党が衆院の三分の二以上の賛成多数で再可決、成立させた。「言論の府」である国会なのに、際立つのは与野党の対立だ。参院も「良識の府」どころか「政局の府」と見られるようになったことは否めない。
かつて参院には、衆院の多数派や政党と一線を画す無所属議員で組織する緑風会が活躍する時期があった。衆院に対し、議員個人の良識によって是々非々で臨んだ。だが、政党化の波にのみ込まれ、衆院と同質化した。ねじれ国会をみていると、自民、民主両党は衆参で一体的に行動している感が強い。
江田五月参院議長の諮問機関「参院改革協議会」は、参院選挙区の「一票の格差」是正などの議論を進めている。参院の独自性発揮のための抜本改革にも全力を挙げてもらいたい。
コンピューターウイルスの作成者として国内で初めて逮捕され、著作権法違反と名誉棄損の罪に問われた大阪府の男子大学院生に対して、京都地裁は懲役二年、執行猶予三年の判決を言い渡した。
判決によると、大学院生は昨年十一月、パソコンのデータを破壊するウイルスに、テレビアニメの静止画像を著作権者に無断で添付、ファイル交換ソフト「ウィニー」を通じてインターネット上に配信した。また、隠し撮りした同級生の男性の顔写真をウイルスに付けて配信、同級生の名誉を傷つけた。
国内ではウイルスの作成行為を直接処罰する法律はない。弁護側は「処罰することは不当」と主張していたが、判決は「人気のある動画ファイルに偽装して不特定多数の者に受信させるなど、犯行は卑劣で巧妙」と断じ、被告の刑事責任を重くみた。
コンピューターウイルスを介し、個人情報の不正取得や、パソコンのデータを破壊、ネット上に流出させるサイバー犯罪は年々巧妙化している。しかし、法の未整備から、ウイルスの作成者を特定しても摘発できない可能性も残る。
政府は二〇〇四年にウイルス作成を罰することを盛り込んだ改正刑法案などを国会に提出したが、反対のある共謀罪とセットだったため、審議が進んでいない。一方、法規制には、コンピューター技術の自由な研究開発ができなくなるといった指摘もある。
それでも、インターネットが現代社会に広く浸透しているだけに、ウイルスによる市民生活や経済活動などの被害、混乱を放ってはおけない。今回のような著作権法などによる摘発では不正を防止できまい。作成者を取り締まるための法整備を急ぐ必要がある。
(2008年5月18日掲載)