ボオーーーーッ、シュ、シュ、シュシュシュシュ。動きだした蒸気機関車は稲田を分け山の端を行く。石炭のにおい、鉄橋の振動、ブレーキのきしみ、踏み切りを過ぎカーブに差し掛かると今度は坂道の重み。ハンドルを切りつつブレーキ弁を調節し砂まきコックに注意を払う……。
「鉄道の日」の14日開館する「鉄道博物館」。目玉は蒸気機関車(SL)運転シミュレーターだ。沿線風景の映像、振動も再現され、機関助手がしていた石炭をスコップでかまに投入する作業も当時のまま体験できる。車体は本物だが、音もにおいも実はコンピューター制御。安全のため熱さだけは模擬していない。SL運転経験のある館長代理、荒木文宏さん(66)は「SLのシミュレーターは日本初、世界でも見たことがない」と胸を張る。運転には技術や労力だけでなく、機関士と機関助手のあうんの呼吸も必要だそうだ。「日本の発展を支えた歴史や鉄道魂の源を体で感じてほしい」と語る言葉には重みがある。
メーンエントランスの右手は巨大な車庫ふうの「ヒストリーゾーン」。重要文化財の一号機関車や、弁慶号、0系新幹線などが存在感を示す。屋内外の展示車両は「交通博物館」時代の8両から36両へと一気に増えた。屋根や車体下部構造を観察できるようにも工夫されている。鉄道の原理や運行の仕組みを知ることができる「ラーニングゾーン」も見どころがたくさん。駅構内や車両工場の実物モデルがあり、駅係員の仕事を疑似体験することもできる。
幅25メートル、奥行き8メートルで、HOゲージ(実物の80分の1)を採用した模型ジオラマは国内最大。線路の延長は約1400メートルにも達する。プラレールの世界に入り込んだようなキッズスペースは小さい子の人気を集めそうだし、屋外の庭園には、自動列車制御装置(ATC)と自動列車停止装置(ATS-P)を備え運転体験のできるミニ列車があり、こちらは子供だけでなく大人も夢中になりそうだ。
博物館の敷地は約4万2000平方メートルで、東京ドームとほぼ同じ面積。ガラス張りを多用した建物の延べ床面積は、東京・神田にあった「旧交通博物館」のおよそ4倍、バリアフリーにも配慮されている。敷地は新幹線と在来線の線路にはさまれており、JR東日本の各新幹線をはじめ、高崎線、川越線、埼玉新都市交通のニューシャトルなど、ひっきりなしに通る電車や貨物列車を見ることができる。通る車両を眺めているだけでも1日楽しめそうだ。【浜田和子】
2007年10月13日