西日本新聞

密漁者もう逃がさない 高速取締船、県が導入 夜の海、暗視カメラで目光らせ

2008年5月18日 10:10 カテゴリー:九州・山口 > 長崎
県の新型漁業取締船「かいおう」

 密漁取り締まりに、県が新たに配備した漁業取締船「かいおう」と「はやぶさ」が4月から県内海域のパトロールを始めた。最高速度は従来船の約1.5倍の時速約86キロ。昨年は不審船を48回追い掛けながら3回しか追いつけないなど、高速エンジンを積んだ密漁船に手をこまねいていたのが現状で、漁業者は取り締まり強化に期待を集めている。パトロールに同行した。 (長崎総局・宮崎拓朗)

◆時速70キロで猛追

 12日午後7時、取り締まりに向かう「かいおう」が長崎市多以良町の新長崎漁港を離れた。

 取締船は周囲から目立たないよう明かりを消し、船内は機材のわずかな光しかない。この日は、日本の南海上にある台風の影響で船は上下に揺れ、時折、大きな波が船腹にたたきつけた。

 8人の乗組員は体を大きく揺らしながらも「漁船が少ないしけのときほど密漁が横行する」と監視の目を緩めない。漁船が近づくたびに、双眼鏡や新たに導入された暗視カメラで不審な点がないか、目を光らせた。

 西へ約2時間、五島市・福江島の街の明かりが見え始めたころ、レーダーに映った漁船が取締船を避けるように走り始めた。時速約70キロで追い掛け、あっという間に停止させる。乗組員が甲板に降りて事情聴取を始めた。違法操業ではないことが判明したが、船内には緊迫感が漂っていた。

◆悪質密漁に怒り

 県漁業取締室には、操業中の漁業者らから違反操業の目撃情報が寄せられる。高価なアワビやサザエの密漁、ライトを点滅させて魚を網に追い込む「パッパ網」、海洋資源を乱獲する底引き網の不正改造など、どれもルールを守っている漁業者の生活を脅かす行為だ。

 しかし、昨年は151件の情報が寄せられたのに対し、検挙、送検できたのは17件にとどまった。従来の取締船は最高速度が時速50キロ余で、速いものでは同70キロとみられる密漁船を取り逃がしたケースが目立つ。

 大村湾海区漁協長会の松田孝成会長によると、同湾では名物のナマコが夜間に数十キロ単位で密漁される被害にたびたび遭ってきた。駆けつけた取締船をあざ笑うように手を振りながら逃げた密漁者を、松田会長は見たことがあるという。「自分たちが大事に育てたものをいとも簡単に持って行かれるのが悔しい」。それだけに、高速の取締船に寄せる期待は大きい。

◆検挙はまだ1件

 配備後1カ月半余りでの新型取締船の検挙件数は1件。今のところ、持ち味の船脚を生かして追跡しての検挙はない。

 近年は年間の検挙件数が20件程度ということを考えれば、ややペースは鈍いが「かいおう」の乗組員は「スピードに恐れをなして、県内の海域に密漁者が現れなくなったのでは」と“抑止力”を強調する。一方で、県の担当者は「新型船の動きを把握するなど、密漁がより巧妙になったのでは」と危惧(きぐ)。新型船の効果はまだ未知数だ。

 県内漁業は、2005年の漁獲高(約33万トン)がピーク時の1979年の約3分の1に減っているのに加え、安価な輸入品の流入や燃油高騰に苦しむ。漁業者らは魚種ごとに漁ができる区域や期間を決めて資源確保に努め、生き残りに必死なだけに、ルールを踏みにじる密漁の罪は重い。

 県漁業取締室は「漁業振興を漁業者とともに取り組む姿勢を示すためにも、新型船で結果を残したい」としている。


=2008/05/18付 西日本新聞朝刊=

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