東京証券取引所第一部の上場企業による二〇〇八年三月期決算発表がほぼ出そろった。自動車を含む輸送用機器をけん引役に六年連続の増収増益、五年連続の過去最高益だが、〇九年三月期については一転して七年ぶりに減益に転じるという厳しい見通しになっている。
新光総合研究所が、十四日までに決算を発表した八百六十二社(金融除く)について集計した。それによると、〇八年三月期の売上高は前期比7・6%増、経常利益は5・0%増だった。とはいえ、〇七年三月期に比べると伸び率はやや下落した。
懸念されるのが、〇九年三月期の業績予測である。売上高は3・3%増を見込んでいるが、経常利益は5・7%減と急激に悪化するとの見方が強い。
要因は米サブプライム住宅ローン問題による米国の景気減速に加え、原油、鉄鉱石、穀物など原材料価格の高騰、さらには急速な円高という「三重苦」が輸出産業を中心に企業収益を圧迫するとみている。業種別の経常利益予測は、輸送用機器が24・5%減、鉄鋼が21・1%減などとなっている。
一方で、円高の影響を受けにくい内需企業などには、増益を予想する企業が多い。小売業が7・6%増、卸売業は17・5%増、建設も12・6%増を見込んでいる。しかし、規模の小さい企業が多いため、全体を押し上げる力にはなりそうにない。
内閣府が十六日に発表した一―三月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値では、企業の設備投資が前期(〇七年十―十二月期)比で0・9%減少し、三期ぶりにマイナスとなった。これまで景気回復をリードしてきた企業部門に陰りが見え始めてきた。
日本経済は大きな岐路に立っている。先行きの不透明感は増すばかりだ。企業が激しい国際競争を勝ち抜いていくには、新たな商品の開発や、一段のコスト削減といった経営努力が求められる。
経営環境が悪化する中でも、東証一部上場企業の株主への配当金総額は、〇八年三月期で六兆円超と過去最高を更新する見通しという。敵対的な合併・買収(M&A)の防衛策として、株主をつなぎ留めておきたいという経営陣の意図がうかがえる。業績不振の企業には、一層の経営悪化を招きかねない。そのしわ寄せが、事業の新たな展開を阻むことになってはならない。
新たな挑戦が必要だ。得意分野や有望な事業に経営資源を投入する「選択と集中」など経営戦略を磨いてもらいたい。
総務省の有識者研究会が、地方から大都市への人口流出防止策に関する最終報告書をまとめ、増田寛也総務相に提出した。人口五万人以上の「中心市」に都市機能を重点的に集積させ、周辺市町村と協定を結んで「定住自立圏」を形成することで、圏域全体が中心市の機能を有効活用できるようにする構想だ。
総務省は二〇三五年の人口が〇五年に比べ、地方圏で千百七十八万人減少すると予測する。人口流出を食い止め、地域の活力を維持するのがこの構想の狙いだ。「平成の大合併」後の分権型社会を視野に、地域の新たな生き残り策を提示したものといえよう。福田康夫首相は地方再生対策の目玉として、六月にまとめる「骨太の方針」に報告内容を盛り込む方針だ。
報告書は、昼間の人口が夜間を上回る五万人以上の自治体を中心市と位置付け、周辺市町村は中心市に通勤、通学する人の割合が人口の10%以上を占める地域を基本とする。両者が自主的に協定を結び、権利や負担を明確にするよう提案している。
例えば、医療面では中心市の総合病院の医師を周辺地域の診療所に派遣するなど、圏域全体で中心市の機能を活用する。周辺地域が活用できる高齢者向け施設の整備を行う中心市には国が財政支援する。報告書は中心市に圏域全体をリードする役割を担わせるため、財政支援のほか、都市計画決定権や教職員人事権など都道府県からの権限移譲も求めている。
ただ、圏域づくりは自治体の自主的取り組みに委ねられており、構想実現のための財源の裏付けも不透明だ。人口流出防止にはハード面だけでなく、雇用創出などソフト面の施策も欠かせない。地域間格差を拡大させないよう慎重な議論を重ねる必要があろう。
(2008年5月17日掲載)