社説

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社説:中東紛争60年 国連にもっと大きな役割を

 イスラエルの独立60年にあわせて同国を訪問したブッシュ米大統領は、イスラエルの建国はモーゼらに与えられた「古(いにしえ)の約束」に基づくものだと演説した。

 そこは「選ばれた人々のホームランド」なのだと。1948年5月14日にイスラエルが独立を宣言した11分後、米国は世界に先駆けて独立を承認したのだと--。

 旧約聖書と現実の国際政治を織り交ぜた演説は、単なる同盟関係を超えた、米・イスラエルの強い結びつきを再認識させた。

 だが、多くのパレスチナ人やアラブ諸国は、苦々しい思いで聞いただろう。イスラエルの60年は、パレスチナ人にとって「ナクバ(災厄、不幸)」の60年である。4度の中東戦争などを経てパレスチナ難民は450万人にも達した。彼らの帰還を実現できるか、そもそもパレスチナは独立できるのか、という問いに答えるのは容易ではない。

 第二次大戦後の47年、国連総会はパレスチナ地域を二つに分割する決議を採択した。これを後押ししたのは米国だが、ナチスによるホロコースト(大量虐殺)で何百万人もの同胞を失ったユダヤ人に国を与えようという発想が間違っていたわけではあるまい。

 だが、この決定が60年余りに及ぶアラブ・イスラエルの対立を生み出し、その対立解消に国連が実効的な手を打てないできたことを、国際社会は反省する必要がある。和平仲介がもっぱら米国の役目になっているのは、イスラエルの国連不信が一因だが、本来は国連がもっと大きな役割を果たすべきである。

 近年の米国では、大統領は再選を果たすまで和平仲介をためらう傾向があるようだ。ユダヤ系団体の動向が選挙に影響するからだろう。ブッシュ大統領がめざす「任期内の和平合意」が実現しなければ、向こう4、5年は米国の本格仲介すら望めないかもしれない。

 だが、それではイスラエルの安定も図れないことを米国は銘記すべきだ。パレスチナの後ろ盾になってきたソ連・東欧ブロックは冷戦終結によって崩壊し、反米のフセイン政権はイラク戦争で倒された。イスラエルは81年のイラク原子炉爆撃に続いて昨年、シリアの核関連施設を破壊した。

 では、米国とイスラエルがより安全になったかといえば、そうではない。ウサマ・ビンラディン容疑者が両国への憎しみから9・11テロを計画したとされるように、国家の形態を取らないイスラム原理主義は今後も世界の脅威であり続ける。特定の国々がイスラエルに対抗して核兵器を持とうとする動きも、より巧妙になるだろう。

 真の和平は軍事的優越によって達成できるものではない。結局は話し合いによって共存を実現するしかないことを、イスラエルとパレスチナ、そして中東の国々は再確認すべきである。

毎日新聞 2008年5月18日 東京朝刊

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