社説

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社説:原油価格高騰 嘆くばかりではもったいない

 原油価格が恐ろしい勢いで上昇を続けている。年明けに1バレル=100ドルの大台に乗ったニューヨーク先物市場の指標価格は、今や130ドルに迫っている。1年前の水準の約2倍、10年足らずで10倍にもなった。最近では「150ドル」「200ドル」という予測さえ、まじめに論じられている。

 石油輸出国は潤う一方だが、輸入に頼る日本など消費国はたまらない。ガソリンや航空運賃にとどまらず、幅広い製品の値段に影響する原油の値上がりは、国民のくらしや企業収益の重しとなっている。

 投機資金が引き起こしたバブルだとの指摘がある。米国のサブプライムローン問題を受けて株式市場などから流出した資金が、原油や穀物などの価格をつり上げているとの見方だ。もちろん、こうした側面は否定できないが、投機資金を犯人扱いしたところで、資金の流れを直接制限する現実的解決策は見当たらない。

 では、我々には嘆くことしかないのだろうか。

 投機資金が、原油に目を付けるのは、産油国の生産余力が乏しくなる一方で、石油の消費は堅調に伸びていきそうだからだ。世界の原油生産量は、年々増えてきたが、これ以上まとまった量を短期間で増やせない水準まで来ている。政情不安で安定的な生産が期待しにくい産油国もある。

 一方、消費量は、中国やインドなど高成長国で高い伸びとなっており、自動車や大型家電の普及、工業化の進展により、今後も増加が続きそうだ。必要量を十分にまかなえるのかという不安が投機資金に「買い」の材料を与えている。

 ではどうしたらよいか。油田の開発などに投資して生産能力を引き上げることは一つの選択肢だ。ただ、資源に限りがあることや地球温暖化を考えれば、最も望ましいとは言いにくい。

 となると、優先すべきは、消費の抑制だ。高い原油価格は、実は省エネや自然エネルギー普及の追い風となる。これまで割高だった省エネ製品が見直され、エネルギー効率を上げる新技術開発への投資機運も高まりが期待される。トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」の世界販売台数が量産開始から10年超で累計100万台を超えた。環境への関心もあるが、ガソリン高のお陰でもある。

 日本は2度の石油危機を経て、エネルギーの効率利用で世界の優等生となった。再び、危機をチャンスに変えることができないものか、官民挙げて知恵をしぼる時だ。「第2、第3のプリウス」で世界をリードする可能性は十分ある。

 政府もエネルギー効率の改善余地が特に大きい途上国が、経済成長を犠牲にせずに石油消費の伸びを抑えられるよう、方策づくりを、他国と協力しながら本気で進めるべきだ。

 嘆いている時間はない。

毎日新聞 2008年5月18日 東京朝刊

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