ここから本文エリア

現在位置:asahi.com>関西>関西を楽しむ>勝手に関西世界遺産> 記事

登録番号167 近畿あるいは、キンキ

2008年05月15日

 私たちは、近畿地方にすんでいる。しかし、近畿という地名を口にすることは、あまりない。くらべれば、関西という呼称のほうが、ずっとしたしまれている。

写真国の出先機関はそろって「近畿」を冠する。行政用語としては主流だ

 自分は関西人であり、関西弁をしゃべっているという思いも、ひろく共有されていよう。しかし、近畿人や近畿弁という言い方は、まずつかわない。行政区分では、近畿地方が正式名称になっている。だが、公共放送でも、このごろは関西地方と言うようになってきた。このコラムも、関西世界遺産であり、近畿世界遺産にはなっていない。

 近畿の「畿」は、宮殿や都のことをさしている。だから、近畿は都の近くという意味になる。現代語訳をすれば、首都圏である。

    ◇

 かつては、畿内の人々が、関所の東側にある辺境地を見下して、関東と呼んでいた。だが、このごろは、関所(箱根?)の西側が、関西と言われている。私は近畿の低迷と関西の浮上に、この地域がおとろえていくきざしのひとつを読む。今は、われわれが辺境人で、関東が首都圏、つまり事実上の近畿なのだ。

 また、国際化のいきおいも、近畿をつかいにくくさせている。ローマ字のkinkiが、英語のkinky(変態の、性的に倒錯した)をしのばせるからである。関西空港が近畿空港にならなかったのも、英語圏での悪印象をさけてのことだろう。そういえば、近畿日本ツーリストも、海外ではキンテツ・インターナショナルを、名のっている。

    ◇

 KinKi Kids(キンキ・キッズ)は、そんな逆風のなかでも、がんばっているほうだろう。ひょっとしたら、「変態小僧」として英語通におもしろがられることを、ねらっていたのかもしれない。だが、彼らもこのごろは、ソロ活動にいそしんでいる。キンキとしての仕事がへっているのは、ざんねんだ。まあ、もうキッズという年ではないような気もするが。

 近畿大学が、英語表記をキンダイ・ユニバーシティにかえるらしいという噂(うわさ)も、耳にした。たんなる噂であってほしいと、そう思う。

 じっさい、キンキの名は、英語圏へいけば喝采をあびやすい。たとえば、キンキ・ユニバーシティのロゴが入ったTシャツは、世界的に人気がある。注文も、けっこうまいこむらしい。私も一枚ほしいぐらいである。

 近畿の衰頽(すいたい)する時代だからこそ、キンキをまもりたいと、私などは勝手ながら考える。ウケねらいの関西人魂が、国際的にもみたされる名前ではないだろうか。

(文・井上章一〈国際日本文化研究センター勤務〉 写真・伊ケ崎忍)


○印象硬め 定着は20世紀

 そういえば、近畿って、天気予報か行政用語で耳にするぐらい。個人的には、ちょっと硬めの印象の近畿より、関西の方が親しみやすい。ジャニーズのアイドルにだって、関西出身者で固めた関ジャニ∞(エイト)というグループがあるし。

 歴史を調べると、関西という言葉は、近畿よりずっと古くからあった。大化の改新(645年)の後に置かれた三つの関、鈴鹿(三重県)、不破(岐阜県)、愛発(あらち)(福井県)を結び、そこから東を関東、西を関西としたのが起源とされる。ただ、関西が文献に登場する例は極めて少なく、京都を取り巻く地域は畿内と呼ぶのが普通だった。

 近畿が、大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀の2府4県(福井、三重を含むこともある)を指す呼称として一般化したのは20世紀。宮本又郎・関西学院大学大学院教授(経済学)によると、1903(明治36)年に地理の国定教科書に採用され、公用語として定着したのは明治末期から大正期という。

 やがて、ばくぜんと西日本を指した関西の意味する地理的空間が狭まり、近畿と重なった。近畿より関西が主流になったのは、日本の「中心」から、関東を意識せざるを得ない地域になった現実の反映か。ちょっと悔しい。私も「近畿復権」を唱えたくなってきた。(佐藤千晴)

★関西が誇る「お宝」を紹介します。「これぞ関西の世界遺産」という有形無形のお宝の推薦をお待ちします。住所、氏名、電話番号を書き、〒530・8211朝日新聞生活文化グループ「勝手に関西世界遺産」係へ。ファクスは06・6231・9145、メールはdo-kansai@asahi.comで。ご意見、情報などもお寄せ下さい。

PR情報

このページのトップに戻る