ビールス・パニック


 

 
第3話


「はいー、支倉です。八木原君?」

 寝ていたのだろうか?
 真弓の、昼よりもさらにボンヤリした声を聞いて、潤也は不安に思った。

「あ、支倉。ゴメン、寝てた?」

「うんん、大丈夫―。あ、でも、ちょっと寝そうだったかも。ベッドで休んでたんだけどね、携帯取ろうとして今、ベッドから落っこちちゃった。あのね、うちの両親、まだ帰ってきてないみたいなんだけど、どうしよう、帰ってきてから、こっちからかけなおそうか?」

「あっ、イヤ。あのさ・・・。」

 潤也が生唾を飲み込む。乾いた喉が、唾を通すのに痛みを感じるほどだった。

「あの・・・、ご両親への、説明は・・・、今度にしても、いいかな?それより、俺、支倉に、その、頼みがあるんだけど、いい?」

 寝起きを思わせる、真弓の深い鼻息が携帯のスピーカーを通じて潤也の耳もとに伝わるようで、潤也の心臓が早くもオーバーヒートしている。

「うん、たのみってなーに?八木原君の言うことだったら、何でもきくよ。」

「明日・・・、朝、普通に学校行くように家を出て、携帯から学校に、風邪が治らないから休みますって電話を入れてほしいんだ。それで・・・、僕が臼杵坂の駅まで迎えに行くから、そこで待ち合わせて、僕のうちでゆっくりしない?」

 優等生の支倉真弓が、こんなこと許すわけがない・・・。
 でも、もしも、もしも彼女がこれをOKするなら・・・、他のどんなことも許してくれそうな気がする。

「あっ、ズル休みー?・・・ウフフ。いいよー。今日は学校の帰りに寄り道しちゃったし、カラオケ行っちゃったし。私もう、ドジなだけじゃなくて、悪い子になっちゃった。八木原君のおうちでゆっくりします。よろしくねー。」

 海老が跳ね上がるように、自分の部屋のベッドに飛び込んだ潤也は、反動で小さく跳ねながら全身でガッツポーズをとった。

「お、オッケーね。じゃ、明日の朝、臼杵坂の、今日使った改札口で待ってるから、学校の人にバレないようにして来てね。じゃ・・・、今夜は、風邪薬飲んで、ちゃんと休んでね。」

「うん、わかったー。八木原君、お休みなさい。」

「お休み、支倉。」

 通話の切れる音。
 潤也はもう一度、背筋を使ってベッドの上で飛び跳ねた。
 真弓と、もう1日、二人っきりでいられる。
 それどころか、もしかしたら、今日以上のところまでいける。
 そう考えると、先ほどまで潤也を苦しめていた罪悪感は、期待感にすっかり打ち負かされてしまう。

 圭吾に奪われる前に、自分が・・・なんて言い訳は、大嘘だと自分で思いなおす。
 圭吾は引き金に過ぎない。全部いま、潤也が求めて行なっていること。
 これは全て、潤也の選んだ魔の道だ。

 冷静に考えれば、風邪のせいか何かで普段とは全く違う支倉真弓の状態を利用して、己の思いを遂げようなんていう卑劣な考えは企みが、うまくいくはずがない。
 しかし、「世の中そんなに旨い話はない」なんていうお説教は、今日の潤也にだけは完全に無効だ。
 今日、潤也は、「うまくいきすぎ」の話に連続して直面してしまった。
 あとはもう、地獄まで堕ちてもいい。
 真弓を全部手に入れたい。
 一度天国の匂いを嗅いでしまった彼には、もはや平穏無事な現実なんて全く意味のないものに思えた。

 今日の支倉の匂い、唇の感触。抱き心地。
 白い下着、引き締まった太腿、潤也を射抜いた潤んだ目。
 憧れつくした天使と二人っきりでいられた秘密の時間。
 今の彼女の、潤也だけが知っている秘密。

 潤也は枕に抱きついて、ベッドの上を左右に転がる。
 明日、ここに支倉真弓が来る。
 今夜は果たして、眠ることなんて出来るだろうか?

 しかし、潤也の心配は、彼のその夜四度目の自慰の後に、意外とあっさりと解決された。
 疲労困憊でまどろんでいく彼は、夢の中でもう一度、真弓に会いたいと願った。
 しかしその夜、彼が見た夢は、支倉真弓とは全く関係のない、なぜかパン工場でバイトをする夢だった。


。。。



 八木原潤也が寝苦しそうにベッドの上で寝返りをうっている頃、ある繁華街の駅前では、自動販売機によりかかって、中年男性がカップ酒を口にしていた。

「うぃーっ、 街の灯りが とても綺麗で 横たわる・・っとな。あー、呑んだね。今日も。」

 背中を自動販売機にこすりつけてズルズルと路上にへたりこんだのは、「浦部のオッサン」と仲間内で呼ばれている男性。
 深夜0時を過ぎて、さらに賑やかになりつつある繁華街で、すでにいい気分に酔っ払っていた。

「今日は仕事がなくって競輪行って、ボウズで昼からヤケ酒だ。こりゃー、金が貯まんないわけだわな。反省、反省。日々これ猛反省だ。しかし、あんまり反省しすぎて落ち込んじゃったんじゃぁー、明日の仕事探しにも差し支える。それじゃー、気分転換に、一杯やっとこうってわけだ。なぁ?」

 誰に話すともなく、大声で喋る浦部のオッサン。
 急に話を振られた道行くサラリーマンは、目を合わせないように足早に歩き去った。

「皆さんの忙しそうで、・・・ねぇ。まあ忙しいってのは悪いことばっかりじゃないよ。皆様、今日もお仕事ご苦労さんです。日本を支える確かな力ってわけだ。えぇ?」

 よく日焼けした赤ら顔。
 禿げ上がった頭部まで、先ほど立ち飲み屋でひっかけた芋焼酎と熱燗のおかげで真っ赤にテカっている。浦部のオッサンはいつも、酒さえあれば上機嫌だ。
 もっとも酒さえなければ、妻子に逃げられることもなかっただろうが。

「学生さんらの行き来が多い多いと思ったら、大学のサークルが呑み会ばっかりやってる季節か。花見が終われば新歓コンパ、新歓終われば普通のコンパ。これまたご苦労様でございますっ。」

 大学生の集団が、はしゃぎながら進んでいく。
 浦部のオッサンが真顔で敬礼をしながら見送った。
 さっきの集団から遅れて歩いているグループだろうか?
 同じように若い服装の女子大生が2人、ふらふらと人の進む方向へ歩いていた。

「おっ、おネーちゃんたちも飲み会かね?揃いも揃って別嬪さんだねっ!オッパイ揉ませてちょうだいっ。なんてな。こりゃいかん、セクシャラかな?どうも失礼しましたっ!」

 通行人をからかいながら、カップ酒を陽気にあおる浦部のオッサン。
 声をかけられた女子大生2人は、間を空けずに
「いーですよ〜。」

 と頼りないトーンで答えた。

 口につけた日本酒を、わざとらしく吹いて見せた浦部のオッサン。
 額を空いている手で叩くと、ピシャリといい音がした。

「ガハハッ、あっさり返されるとは思わなかったな。こりゃ一本とられた。ネーちゃんたちユーモア大賞だ。な?」

 反応を返してもらって嬉しかったのか、オッサンがおどけた。
 綺麗に着飾った女子大生二人は、他の通行人と違い、オッサンの前で立ち止まって、彼を真っ直ぐみつめた。
 二人とも、どことなくしまりのない、無邪気な笑みを浮かべている。

「それであのー、どうします?服の上から揉むのでもいいんですか?直接触って揉みますか?」

 中腰でオッサンを見下ろしている女子大生が、両手を膝にのせて尋ねてくる。少し胸の谷間が服から垣間見えた。
 浦部のオッサンは、綺麗にメイクをした今風の女子大生二人を、交互に見上げる。
 どうも冗談に合わせているだけではなさそうだ。

「ネーちゃんたち、粋だねーっ。季節の変わり目ってのは、たまーにこういう観音様みたいにありがたい別嬪さんが登場するから、やめられねぇ。・・・よしっ、こっからちょっと歩けば公園だ。心変わりしねぇうちに、オッチャンについてきとくれ!」

「はい・・・、どこでも、案内してもらったところに行きます〜。」

 女子大生の声が揃う。膝を叩いて立ち上がったオッサンは、大事な酒もうっちゃると、二人を伴って路地裏へと消えた。


。。。



 虫の声が騒がしい公園の草陰。
 白いシフォンワンピースの上にボレロを羽織った夜会用の着こなしの女性と、モノトーンのカジュアルスーツを身にまとったショートカットの女性が、呆けたように立ち尽くしている。

「二人とも、コンパの待ち合わせしてたのに、待ち合わせの場所も時間も間違えてたって?携帯電話も大学の講義室に忘れてきた・・・。こりゃ相当ドジ踏んだね、しかし。挙句の果てに道にも迷ってふらふらしてたと。しかしその割りには、そんなに困ってなさそうなところが偉いじゃないかい。いいねえ、若いうちは無鉄砲が一番。色々経験するのがいい。じゃぁこれからオッチャンが色々経験させてあげるから、まずは二人とも、お乳の育ち具合を見せてくれるかい。」

 オッサンに言われた二人は、互いに顔を見合わせて、クスクス笑う。
 照れくさそうに微笑みながら、手は上着を脱ぎ始めた。
 柔らかいボレロがふわりと草むらに落ちる。
 七分袖のジャケットもスルリと落ちた。
 ワンピースのチャックが開く音、衣擦れの音。
 繁華街の喧騒を遠くに聞きながら、オッサンは久々に目のあたりにする若い女性の素肌に、目を細めた。

「はい、どうぞ。」

「お乳の育ち具合を見てください。」

 夜会巻きの理穂はワンピースを下ろすと、ベージュ色のストラップレスブラジャーを下にずらすと、豊満な乳房を外気に晒した。
 ショートカットの髪を外跳ねにしているヒナタは、キャミソールも脱ぎ捨てて、淡いペールオレンジのブラも投げ捨てる。

 野外で上半身裸になってしまった二人の女子大生は、浦部のオッサンの前で「気をつけ」の姿勢をとった。

「おーおーおー。立派に育ったもんだね。アンタのオッパイはこりゃ見事。ボリューム満点で・・・、揉み心地もこの、指の間からムニュってはみだしてくる感じが。たまらんね、こりゃ。はみだしデカって感じだよ。アンタのお乳はこれまた乳首がツンッて上向いてるね。ちょっと小ぶりだけどちょうど手のひらサイズだ。固めの揉み心地がまた、若さを感じさせるね。フレッシュで生意気なオッパイ。二人で乳ビンタしてくれるかい?
 こう、オッサンの頬を、往復ビンタみたいにお乳でひっぱたくんだよ。そうそう、上手いもんだ。」

 ペチペチと弾力性のある音がして、女子大生たちの笑い声があがる。
 がさつな指で鷲掴みにされ、乳首にしゃぶりつかれても、彼女たちはろくな抵抗を見せない。
 浦部のオッサンはますます調子に乗っていった。

「よしっ、もうこうなったら、最後まで行っちまおう。とことんまぐわっちまおう!綺麗なおべべだけど、全部脱ぎ捨てちまおうっ。なっ、なっ?」

「はい。わかりました。」

「まぐわいます!」

 女子大生たちは、口々に賛意を示しながら、嬉々として草むらで残りの衣服を放り出してしまう。
 上等そうな勝負服が、そして勝負下着が周囲に脱ぎ散らかされる。



「うっ・・・うんっ・・・凄いねー、ネーちゃんたち、本当に、何でもやってくれるんだねー、オイ。こりゃ本当、競輪で負けても、大満足だ今日は。なあ?」

 試しにお願いしてみようと頼んでみたダブルフェラを、裸の女子大生は当たり前のように受け入れてくれた。
 浦部のオッサンの汚い一物の左右に跪いた二人は、横笛のように両側からオッサンのモノに口をつける。
 裏筋の下で二人の舌先がくっつく。そのままモノを可能な限り口に含み、首を左右に振ると、オッサンが絶妙な快感にのけぞった。

「うぉぉおおぃっ、震えるぐらいイイねー。若い子に生でしゃぶってもらうのなんて、何年ぶりかなー、オイ。今度は、交互に亀頭を口に入れてしゃぶってくれるかい?・・・うんうん、上手い上手い。近頃の女子大生は、素人でもなかなか経験豊富なんじゃねぃか?こりゃ。」

 まるで仲の良い女友達が二人で一つのアイスクリームを味わうように、交互にオッサンの一物を嬉しそうに咥えこむ。
 オッサンに求められれば、何の抵抗もなく1人ずつ、喉の奥までモノを入れ、少しムセながらも喉で一物を愛撫する。
 温かく湿った彼女らの内部が、モノに包み込むように触れると、ヌルヌルとした感覚がオッサンを思わずニヤケさせた。

 いよいよか、仕事のある日は毎日セメント袋を担いで働いている体力は伊達じゃない。まだまだ若い者には負けんぞっ。
 浦部のオッサンの駅弁ファックが、公園で全裸になっている綺麗どころを、付き上げまくる時が近づいていた。


。。。



 もう半年近く前になるだろうか?
 潤也が真弓のことを初めて強く意識したのは、秋の体育祭でのことだった。
 クラスメイトの大樹と違い、あまり運動の得意でない潤也は、ただ漫然と、このイベントが過ぎていくのを見守るだけのつもりだった。

 女子のリレーにも興味はない。
 ボンヤリと、級友たちが走者を応援しているのを、邪魔しない程度にやり過ごしていた。

「ラスト20!美和ー!抜けるよーっ!」

 ふと、よく通る声を聞いて、潤也は顔を上げた。
 アンカーとして待機していたのは、黄色い鉢巻を巻いた支倉真弓だった。
 優等生で、文句のつけどころのないような、スレンダーな美少女。
 だけどどこか潤也にとってはとっつきにくい、クールなイメージのあった彼女が、大きな声を出してクラスメイトを叱咤激励する姿は、心底意外だった。
 陸上部で期待されているということは有名だ。
 しかしそんな、真っ直ぐに熱い部分も見せる真弓の姿は、潤也のクラスを大いに盛り立てた。
 みんなの応援も、支倉に引っ張られるように、より白熱した。

 バトンが、前の走者から真弓に渡る。
 スレンダーな体の彼女は、ショートパンツから出ているほっそりとした両足を、跳ねるように伸ばす。
 若い鹿が、軽やかに跳ねるように、背筋を真っ直ぐに伸ばして、真弓は走る。
 しなやかに、バランスよく体重移動するフォーム。
 長いストライド。ゴールを射抜くように見据える大きな目。
 彼女の走る姿は、潤也にとって言葉に出来ないほど美しく感じられた。

 潤也はその時に理解した。
 これまで支倉真弓に対して自分が感じていた距離感は、知らないうちに自分がとろうとしていた距離だ。
 美しく、真っ直ぐで、懸命で、眩しい。
 穢れのない頑張りが、支倉真弓にはみなぎっていたのだ。
 どこか屈折したところのある潤也はそのことを感じ取り、真弓に対して無意識のうちに距離を置いていた。
 しかしその体育祭の日からは、潤也の思いは、もっとストレートな、憧れに変わった。

 あの時の支倉真弓が、ランニングシャツにショートパンツで、ポニーテールに束ねるには少し短い後ろ髪を、ピョコンと止めて走っていたクラスの天使が、今日、手に入る。

 緊張で早くも高鳴る胸を抑えつつ、潤也は改札口の前で真弓を待つ。
 制服姿の彼女が、穏やかな笑みを浮かべて、朝の強い光の中から現れた。
 白いワイシャツが日に照らされて眩しい。
 襟元に白いラインの入った紺色のベストと、プリーツスカート。
 赤いチェックのネクタイが、左右に揺れていた。

「八木原くーん、おはよーっ。」

 右手を、授業中に挙手するように高く上げて、真弓が挨拶をする。

「おっ、おはよっ。」

 潤也なりに精一杯、爽やかな挨拶をしようとする。
 憧れの美少女は、潤也に柔らかな微笑を返してくれた。



 学校とは反対方向に二駅進む。
 竜胆ヶ丘で下りると、八木原潤也の家まで、歩いて10分ほどだ。
 今朝から四日間、母親は婦人会の旅行に出ている。
 父親は仕事の関係で月の半分は広島にいる。
 そして兄は去年から大学の寮生活。
 ここ数日は潤也が、一人で守っている自宅へ、真弓を招き入れる。
 二階の潤也の部屋へと案内すると、慌ててお茶を出す準備をした。

「待たせた?手際悪くてゴメン。これ、お茶とお菓子。お茶は濃すぎたらお湯足すから言って。あとは・・・、その、楽にして。」

「あ、うん・・・。楽にします。」

 座布団の上に正座して待っていた真弓が、潤也に言われるままに、足を崩して、斜めに体をずらし、「お姉さん座り」になる。
 スカートの裾から見える、引き締まったふくらはぎが、潤也の目を惹いた。

「あ・・・、あのっ、お母さんには、嘘ついて、ズル休みしちゃった?」

 潤也が、短い沈黙にも耐えられずに、口を開く。

「うんっ。そうだよ。私・・・、悪い子になっちゃった。困ったなー。」

 潤也に勧められるままに、「ハッピーターン」をかじりながら、真弓が答える。
 例によって、あまり困ったように聞こえない話し方だ。

「いや・・・、いいんだよ。・・・支倉は、僕の言うことを聞いてる限りは、いい子なんだよ。これからも・・・、ご両親の言うことと僕の言うことが食い違ったら、僕の言うことを優先して聞いてくれるかな?」

 しばらく首をかしげて目をしばたいていた真弓は、やがて満面の笑みを浮かべた。

「うんっ。わかった。八木原君の言う通りにしてれば、私、ずっといい子でいられるんだね。よかった〜。お父さんやお母さんの言うことよりも、八木原君の言うことを聞くようにする。よろしくお願いします。」

 仰々しく真弓が頭を下げる。
 うまく行き過ぎて、潤也は少しうろたえた。

「こ、こちらこそ・・・。あの、・・・それで、相談なんだけどね。支倉・・・、その、僕と、付き合わない?僕の、彼女になってほしいんだ。それで・・・」

「はい、いいよ。」

 まだ告白の途中なのに、あっさりと笑顔の真弓が了承してしまう。
 なんだか、またもや拍子抜けする告白シーンだった。

「あ、あのー、彼女・・・。いいの?」

「うん、彼女。よろしくね。」

 真顔で、大きく首を縦に振る真弓。
 潤也はもう少し感動が欲しくて、昨日のカラオケボックスでの真弓の変貌を思い出してみた。

「支倉、本気で、心の底から100%、僕に恋をして下さい。」

 あっさり了解していた真弓の顔が、今度は明らかに変わった。
 両手で口を押さえて、潤也から潤んだ目を離さない。

「凄い・・・、嬉しい。八木原君・・・。私なんかで・・、いいの?」

 しばらく潤也に見とれていた真弓が、不意に潤也の胸に飛び込んだ。
 髪が振り乱されるのもかまわずに、潤也をギュッと抱きしめ、耳から頬を潤也の胸に押し当てる。
 赤くなった潤也が、少し真弓を落ち着かせようとしても、彼女は決して、1センチも離れようとしない。

「私、来週から部活やめるねっ。八木原君にとっていい彼女であれるように、精一杯努力する。塾もやめちゃう。少しでも長く、八木原君のそばにいたいのっ。」

「は、支倉、ちょっと落ちつ・・・ギュアッ!」

 真弓がきつく抱きしめすぎて、潤也は肺から妙な悲鳴を出した。
 語りだした真弓は潤也を見ながら、目が据わり始めた。

「二人で学校もやめましょっ。みんなが反対したら、駆け落ちして、日本海に逃げましょう。八木原君が漁をしてくれたら、私が朝市に立って、干物とか海産物を売るの。昼から二人で輪島塗の工場で住み込みで働いて、休憩時間に二人のための食器も作るの。素敵でしょっ!」

「ちょっ、ちょっと落ち着いてってば!」

 潤也がやっと言い切ると、それを聞いた真弓はようやく暴走を止めた。
 自分の座布団へ戻って、湯呑みを両手でとり、熱いお茶をすすり始める。
 つい先ほどの、嵐のような愛情のほとばしりもすっかり忘れてしまったかのように、淡々とお茶を飲んでいる。

「ゴメン、ちょっと表現が強すぎたみたい。・・・じゃあ、ラブラブの高校生カップルらしく、僕のことを大好きになって。これまで誰かに恋をした時の、1.5倍ぐらい、僕のことを想ってくれる?」

 胸が苦しいかのように、真弓は自分の体を抱きしめた。
 目を閉じて、切なさに耐えるように身をよじる。
 大きな目を開けて潤也を見た時には、彼女は恥じらいを隠すような、照れ笑いを見せた。

「支倉・・・、僕のこと、好き?」

 恥かしそうに目をそらした真弓は、数秒間を置いて、意を決したように小さく頷いた。

「・・・・大好き。」

「じゃあ、両思いのカップルなんだから、・・・その、よければ、キスしよっか?」

「・・・はい。」

 顔を少し上に向けて、そっと両目を閉じた支倉真弓は、ゆっくりと口をすぼめて、潤也の口づけを受け入れる体勢になった。
 真弓のそばに寄って、そっと両手を彼女の背中に添える潤也。
 二人は丁寧に唇を重ねた。
 昨日と同じ、弾力性のある湿った温かみに、潤也の唇が触れる。
 じっくりと、長いキスを始めた。
 潤也が上下の唇を少し開けると、密着している真弓の唇の間にも隙間が出来る。
 そこに彼が舌を入れると、真弓の体が一瞬、ハッと硬くなった。
 それでも、あたたかく濡れた彼女の舌に潤也の舌先が触れると、彼女の硬直は溶けるように緩んだ。
 真弓の口が、潤也の舌を受け入れて、互いに舌を絡めあう。
 二人の唾液が渾然一体となっていくのを感じて、潤也の昂ぶりはいっそう激しくなった。

 昨日のキスは偶然もたらされたもの。
 しかし今日のキスは、潤也から仕掛けて、潤也が奪った、数多くの男子生徒たちの空想の宝物だった。
 潤也は、真弓がそれを受け入れ、応じてくれるのをいいことに、思う存分、貪り、味わった。

 呼吸が持たなくなって、潤也が真弓から口を離した。
 しかし、真弓の心まで離すつもりはもう、全くなくなっていた。

「支倉・・・。服を脱いで。」

「服を・・?・・・はい、脱ぎます。」

 潤也が急いで部屋のカーテンを閉める。
 一旦薄暗くなった部屋はしかし、彼が電気を点けると白い光に照らされた。
 真弓は赤いチェックのネクタイを解くと、スルスルと襟元から抜き取る。
 腕を交差させて紺色のベストの袖に手をかけると、躊躇わずに首から抜き取った。
 衣擦れの音。
 光沢のある黒髪が、ベストを脱ぐときに少し乱れた。
 潤也の口の中がまた、痛いほど乾いていく。

 潤也の前、わずか1メートルほど距離で、支倉真弓が制服を脱いでいく。
 ボンヤリした目と、特に感情を見せていない顔。
 何も思っていないのか、彼の目前で彼女は、平気で一枚一枚と、身につけたものを手放していく。
 白いワイシャツのボタンを上から一つずつ外していくと、胸もとの隙間から、綺麗な刺繍の入った白いブラジャーが一部露出する。

 半年ほど前、潤也は夏服の後姿から少しだけ透けていた、真弓のブラジャーのストラップを見て、強く記憶に焼きつけたことがあった。
 シルエット程度にしか見えなかった彼女の下着の記憶はしかし、数ヶ月間、彼のプライベートな行為の味方となってくれた。
 それが今、じかに彼女の下着を見ている。
 この至近距離で、誰の視線も気にせず、心ゆくまで彼女の下着を見つめることが出来る。
 潤也は呼吸をすることも忘れて、ワイシャツを脱ぐ手を止めない、真弓の体を凝視した。

 ワイシャツから両腕を抜き取ると、スレンダーな上半身が露わになった。
 きめの細かい白い肌、華奢な二の腕、しなやかな筋肉がついた腹部、縦の楕円を描いてへこんでいる臍。
 そして純白のブラジャーに包まれた、柔らかそうな丸い胸。
 桃ぐらいの大きさの隆起が、下着の中に身を隠していた。

 チーー・・・。

 プリーツの入ったスカートの、チャックを下ろす音がする。
 空気の抵抗を受けながら、フワっと床に落ちる。
 ブラジャーと揃いのパンツ、そして引き締まった細い足が潤也の前に曝け出された。

「・・・あっ・・、しまった・・。」

 かがみこんだ真弓が、不意に声を出す。
 潤也の体が緊張で強張った。彼女が、正気に返ってしまったのだろうか?

「靴下・・・、右左、違うの履いてきちゃった・・・。」

 眉をひそめて、困った顔を潤也に向ける真弓。
 潤也はホッとため息をついた。
 罪悪感からか、緊張感からか、彼女の綺麗な裸を凝視しすぎたのか、体の節々が、痛いほど強張っている。
 体を少しずつ動かしながら、ほぐしてみた。

「困ったね・・・。じゃあ靴下も、・・・下着も、全部脱いじゃおっか?」

 ベソをかくような表情だった真弓が、明るく頷く。

「うん。そうする。全部脱いじゃうね。」

 華奢な腕が、背中に回った。
 ゴソゴソと両手を動かしていると、プチンと音がする。
 不意に真弓の胸を守っていた白い布がバランスを崩したようにずれる。
 薄く滑らかな肩からストラップがずらされると、丸くて弾力性のある、若さが凝縮されたような胸が空気に触れた。
 先端がツンと上を向いた、少女の乳房。
 成長過程で精一杯膨れて、精一杯重力に逆らって背伸びをしているような、張りのある白いバストが、潤也の目の前で露わになった。

 思わず二、三歩前に乗り出してしまった潤也が立ち止まる。
 真弓はその手を止めず、白いパンツのゴムの部分に親指の腹をかけた。
 フリルの入った生地が滑らかな肌と擦れる音。
 真弓を守っていた最後の一切れの布が、締まった足首へと下りていく。
 完全に無防備になってしまった、支倉真弓の美しい裸身が、潤也の脳を沸騰させた。
 心臓が鼓動するたびに、自分の体全体に熱い血がドクドクと送られていくのがわかる。
 潤也は今、全てを忘れて真弓の裸を、全身嘗め回すように凝視していた。

 細くて強い、文字通り弓の、湾曲する竹を見るような、しなやかで滑らかな体。
 あるいは小さな弦楽器のような、緊張感と優しさを思わせる曲線。
 真弓の体は、少女から大人の女へと変わっていく、過程にある一瞬の美しさ。
 異なる魅力が入り混じった、奇跡的に儚いアンバランスさを醸し出していた。

 まるでスキーヤーが一人、誰も踏みしめていない処女雪のゲレンデを愛でながら、一つ一つの起伏を大事そうに堪能して滑っていくように、潤也は曝け出された真弓の全身のラインを眼で追っていく。
 胸を見ては腕やわき腹を、美しい顔を見てはまた形の良い乳房を見る。
 何度も視線を彷徨わせながら、やがて下腹部をまじまじと見つめた。

 濃くはないが、真弓の陰毛は黒々と健康的に生え揃っている。
 中心部は下腹部に対して垂直に立つようにそよいでいた。
 腹部から臍へのへこみ方に対して、下腹部はなだらかに盛り上がっている。
 特に陰毛が生えている、恥骨の上、恥丘の部分はコンモリと盛り上がって見える。
 運動少女で優等生。彼女のイメージとは少し違い、はっきりと「性」を意識させる股間の光景が、逆に潤也をいっそう興奮させた。

 もう二歩歩み寄って、真弓の肩に触れる。
 張りのある若い肌は、しっとりとした潤いで潤也の指に反発する。
 もう片方の手で、彼女の乳房を包み込んだ。

「あっ・・・。八木原君・・、あの、私たち、つきあってるけど、まだ、その若いし、私が特に子供だから、まだ・・・。」

「逆らっちゃ駄目。拒んじゃ駄目だよ。僕に・・・されるがままにしようか。」

「は・・・、はい。されるがまま・・。」

 胸を隠そうとした手が、ゆっくりと下におろされる。
 潤也が真弓の「神聖なるオッパイ」を遠慮なく揉みしだくのを遮るものは、何もなくなってしまった。
 ちょうど両手に収まる大きさの丸い膨らみ。
 柔らかく、弾力性のある乳房を、思う存分揉む潤也。
 真弓は口を開けて身をよじった。

 淡いピンク色の、小さめの乳輪。
 そこからツンと上向いている突起は、ジワジワと硬く隆起した。

 支倉の・・・オッパイを揉んじゃってる。
 支倉は全部許してくれちゃう。僕の彼女だから。
 僕は支倉の最愛の彼氏だから、何でもさせてくれちゃうんだ。

 潤也はゴム鞠のようにムニュムニュと反発する真弓の胸を散々弄んだあと、腰を下ろして、彼女の股間を凝視した。

「支倉・・・。けっこうここが、盛り上がってるよね。意外とエッチな体。ふだんは全然そんな感じ見せないのにね。」

 しっとりとした陰毛に触れると、反射的に真弓の手が伸びそうになる。
 しかし潤也の手を掴もうとした、すんでのところで、彼女の両手はピタッと止まった。
 逆らわない。何をされても拒まない。

「気をつけっ。」

 潤也が言うと、弾かれたように真弓の背筋が伸びて、兵隊さんのように直立する。
 両手はピシャッと太腿の真横についた。

 陰毛をじっくりと指の間に挟んで弄り、次は恥丘の、コンモリと膨らんだ部分を撫で上げた。

「ふぁっ、あ、あの・・・、八木原君。」

「休めっ。」

「あっ・・・、あぁん、もう。」

 体育の時間のように、両手を後手に握って足を開いた真弓の姿は、今まさに、熱中して股間を調べている潤也の探検を、わざわざしやすい体勢に変えているように見える。
 真弓が諦めのため息をついた。
 学生カップルとしては、いきなり体を許してしまうのは気が引けたが、八木原が乗り気なら、真弓にはどうすることも出来ない。
 彼女はすでに、最愛の彼氏である潤也の言うことなら、どんなことでも従うことに決めてしまったのだ。

 真弓の股間の下に潜り込んだ潤也は、陰毛を掻き分けて、彼女の大切な場所の全貌を見ようとする。

 勉強とか陸上とか、真面目に取り組みたいことがあるから、こういうことはずっと後でって、決めてたのに。
 困ったなー。・・・しょーがないのかな。

 あまり困った様子でない真弓は、ボンヤリと心の中で独り言をつぶやいた。

 膝をついて真弓の股間を見上げる潤也は、少しくすんだ肌色の、唇のような一対の柔らかい肉がめくれている部分に指先で触れた。
 真弓がビクッと体を強張らせる。

「大丈夫だよ、痛くない。気持ちいいから、リラックスして。」

 潤也が言うと、内腿に張っていた腱が緩んで見えなくなった。
 心なしか、閉じていた一対の粘膜まで緩んだように感じる。
 そっと指を当てて、割れ目からはみ出している小豆色の粘膜をゆっくりと開いていく。
 その粘膜は、思ったよりも弾力と伸縮性があり、潤也が指を開くとピンク色に広がった。

「あ・・あの、八木原君。私、拒まないから・・・、だからその前にシャワーを浴びたいよ〜。」

 秘密の部分を異性にマジマジと至近距離で見つめられて、顔を赤くした真弓がお願いする。
 しかし余裕をなくしている潤也は、一秒でも真弓を離したくはなかった。

「シャワーはね、セックスの後。わかった?」

「はい。」

 真弓は口をへの字にして、少し不満そうながらも、大きく頷いた。

「おさらいね。支倉はシャワーを浴びたいんだよね?じゃあ、その前に何をしなくちゃいけないんだっけ?」

「・・・セックス。私、セックスをしないといけないの。」

 潤也は、どこまでも彼に従順になってしまった真弓を、全力で抱きしめたくなったが、かわりにボディタッチをより激しくした。

「お利口さんだね。ご褒美にどんどん気持ちよくしてあげるからね。どんどんエッチになって、感じてね。」

「はぁっ・・・ぁあんっ。」

 支倉真弓の体に、変化が起こった。
 さっきと同じ部分に、同じように指先で触れただけで、真弓の膝が笑う。
 内腿を擦りあうようにしてよがると、挟まれた潤也の指先が、思わず割れ目の中に入り込んでしまった。
 ヌプッとした感触の、熱い粘膜に指が包まれる。
 ネトネトした粘液が指に絡みつく、足が再び開いた隙に指を抜いてみると、ムッと甘酸っぱい匂いがたちこめた。
 さっきよりも、割れ目がはっきりと開いているように思える。
 指で探ると、思ったよりも下の方、奥の方に、サーモンピンクのへこみがあった。
 指を入れてみると、ほとんど抵抗がなく、奥まで入りそうな感触がする。

 ここだ。

 童貞の潤也は、知っている性知識をフル稼働させていた。
 雑誌の記事、投稿欄の体験告白。
 西中時代、授業に大樹と圭吾がふざけて回してきた、ノートの切れ端に性技の解説を書きなぐった、「明日のために」と題された回覧レター。
 色んな知識が頭の中を駆け巡ったが、実際のところ、彼は直感的に真弓のヴァギナを探り当てていた。

 とすると・・・、ここがクリトリス。

「ふぁっ、・・あんっ、・・・あんっ。」

 割れ目をなぞっていき、上部の先端に包まれた、小さな肉の豆に指が擦れると、真弓が力の抜けた喘ぎ声を上げる。痙攣したように体が震える。

「ぁあんっ、気持ちがいいよぅっ、どんどん、エッチになっちゃうよ〜。」

 幼児が泣くような、甘えるような、あどけない声を出して、真弓がよがる。
 彼女の姿勢が、体育の「休め」の状態のままであることに気がついて、潤也は真弓をその姿勢から開放してやり、ベッドに寝せることにした。

「支倉、楽にしていいよ。ベッドに寝そべって。もっともっとエッチなことをするよ。」

「は・・・はい〜。もっと、もっと、エッチなことします。」

 疲れきったようにベッドに倒れこんで体を任せた真弓は、寝返りを打って体をくねらせた。
 淫らな女が男を誘う様を、懸命に真似ているような素振りだった。

 手品のような勢いで自分の服を脱ぎきった潤也は、真弓に一気に覆いかぶさると、腰を抱きかかえて少し浮かせた。
 自分のいきり立ったものを、手で苦戦しつつ角度を調整して、真弓の大切な場所にねじこんでいく。
 亀頭が、抵抗を押しのけてグッと彼女の中に入っていく。
 さらに押し開いていくと、その先に何か、柔らかい抵抗を感じる。
 昂ぶっている潤也は、構わず突き通した。

 ズリュッと抵抗が破られる感触があって、潤也のモノは根元まで真弓の中に納まった。
 はっと気がついて、真弓の反応を見る。
 彼女はしかし、痛みに全く気がつかないように、快感に打ち震えていた。

「は・・・っ、どんどん、気持ちいい・・・。どんどん、エッチ・・・ウフッ。」

 呆けたように、天井を見上げながら呟いている。

 気持ちだけじゃない。僕は、今は支倉の感覚だって、自由に出来るんだ。
 支倉の心も、体も、全部僕のものに出来る・・・。
 全部奪いたいっ!

 心のタガが外れたように、潤也は激しく腰を振った。
 血が絡まった彼のモノが激しく真弓の秘密の口を出入りし、肉壁を擦り上げる。
 彼女ははばかりもせず、はしたない声を上げて、悶え狂った。

 つい先ほどまでは童貞と処女だった二人が、発情した獣のように肉を打ち鳴らし、快楽に震えた。
 ベッドが壊れるほど激しく揺らし、互いの体を求め合った。
 まるで、真弓の不思議な風邪が潤也にも移り、二人しておかしくなってしまったかのように、二人の高校生は過激にまぐわった。

 ピストン運動を繰り返すたびに、潤也の下半身に快感が溜まり、溢れ出そうになる。
 真弓も運動で鍛えられたしなやかな肉体で、潤也の肉棒を締めつける。
 二人とも常軌を逸したように意味のない声を口から出しながら、迫りくるエクスタシーを、互いの体を抱きしめ合って凌ごうとした。

「うっ、うわっ、支倉、イクよっ。」

「あぁぁんっ、こんなのっ、駄目だよ〜。こんな気持ちよかったら、もうっ、ズルいよっ。変になっちゃうよーっ!ああぁぁああんっ!」



 真弓がイッたかどうか、正直に言うと潤也ははっきりと覚えていない。
 彼は思いっきり自分の種を真弓の体内に出し切ると、そのまま彼女の体に寄りかかって、朦朧としてしまった。

 真弓も、人生で初めて味わう強烈な性的歓喜に、呆然となってしまった。
 天井がグルグルと回る思いがして、意識が飛ぶ。
 二人は小一時間もたった後に布団の中で、抱き合ったままの状態で目を覚ました。

 目を開いて、10センチ先にお互いの顔を見ると、二人は赤面して、照れ笑いを浮かべた。

「お布団、いっぱい汚しちゃった。ごめんね。」

「いいよ、そんなの。それより、シャワー浴びてくる?」

 真弓が嬉しそうに、コクリと頷く。

「じゃあ、僕も真弓と一緒にお風呂入ろうかな。」

「えっ?一緒に?」

 真弓の目が、もう一段階、大きくなる。

「そうだよ、だって僕が真弓の体を汚しちゃったんだから、僕が洗ってあげるのが当たり前だよ。そうだよね?」

「そう・・・かな?そうなんだ・・・。はい、じゃぁ、お願いします。」

 申し訳なさそうに、真弓が潤也の目を覗き込んだ。
 潤也は余裕たっぷりになって、真弓をからかう。

「うん、いいよ。でも僕が綺麗に洗ってあげるんだから、その後で、また僕にベトベトに汚されちゃってもしょうがないよね。真弓はどんどんエッチな女の子になってきてるから、きっと今度の方がもっと気持ちよくて、もっともっと恥かしい汁をいっぱい出して感じちゃうと思うよ。だけど心配要らないよ、そうしたら、また綺麗に洗ってあげるから。」

「え・・・?そんな・・、そうかも・・・しれないけど、でもそうしたら、今日は一日中、シャワーとエッチの繰り返しになっちゃう。」

「いやだ?」

 意地悪そうに、潤也が真弓の目を見る。
 真弓は恥かしそうに、首を横に振った。

「ヤじゃない・・・。」

 赤くなった真弓が顔を掛け布団の中にうずめて、潤也の視線から逃げようとする。
 きっと潤也の言うことは本当だと、真弓は体で理解する。
 ここのところ、彼の言葉が間違っていたことなどない。
 きっと真弓はこのあと、潤也と風呂に入って体を洗いあっこして、さらにまたセックスに励んで、そして今度はさっきよりもさらに強い快感にわななくことになるのだろう。
 想像するだけで、体がうずき始めている。
 きっと潤也の言う通り、自分はどんどんエッチな女の子になってきているのだろう。
 真弓は大事な彼氏と布団の中で抱き合いながら、そんなことをボンヤリ考えた。

 真弓の予想は、今回は当たっていた。
 風呂場で彼女はシャンプーとリンスを間違えてしまったが、両方とも使ったので、大きな影響はなかった。
 その日は、朝から晩まで、セックスとお風呂の繰り返しで過ぎていった。


。。。



 深夜の病棟で、入院中の里村俊喜は急に目を覚ました。
 4人までの入院患者が寝泊り出来るこの部屋は今、俊喜と隣の中年男性の二人が使っていた。

 水色のカーテンの向こう側、宮口さんのベッドのあたりで音がする。

 俊喜は眠たい目を擦りながら体を起こす。
 足を骨折して入院しているため、日中もずっとベッドの上にいる。
 体が疲れていないから、眠りも浅かったのだろうか、変な時間帯に目を覚ましてしまった。

 辛そうに目覚まし時計を確認していた俊喜が、やっと自分を起こした原因、宮口さんのベッドから来る音に興味を持つ。
 ベッドから降り、石膏で固められた右足を音を立てないように引きずりながら、隣のベッドのカーテンをそっとめくった。

「あっ!」

 俊喜は思わず、驚きの声をあげてしまう。
 ゴソゴソ、ビチャビチャと音がたち、時々宮口さんの溜息が混じる、音の正体は、宮口さんの股間に頭を覆い被せている、看護婦さんの行為だった。

「おっ、里村君。起こしちゃったかい。すまんね。いやね、夢みたいな話なんだが、なんとこの看護婦さん、ワシの言うことを何でも聞いてくれるぞ。里村君もよかったら、試してみるかい?気持ちいいぞ。」

 頭が禿げ上がった宮口さんが興奮気味に喋ると、看護婦さんも顔を上げる、ボンヤリと定まらない視点。
 なんと制服の胸もとが大きく開かれ、乳房が放り出されていた。
 そんなことを意にも介さないように、綺麗な看護婦さんは俊喜にニッコリと微笑んだ。

「・・・・。」

 俊喜が半開きの目で後頭部を掻く。

「よかったですね・・・、お休みなさい。」

 カーテンを閉めると、倒れこむようにまた、ベッドに転がった。
 眠りが浅いと、妙な夢を見るな・・・。変な騒音にこれ以上悩まされないよう、布団を頭に被って、枕を抱きしめながら再び眠りの尻尾を手繰り寄せようとする。


 妙な夢のような状況はしかし、朝になって俊喜が完全に目を覚ましても、終わってはいなかった。
 その日、彼の入院している慈光院総合病院は、開業以来のパニックに襲われたのであった。

 
 


 

 

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