茨城県土浦市の8人殺傷事件が起きた3月23日から、わずか1カ月間に岡山駅・男性突き落とし事件▽福岡・女性連続殺傷事件▽鹿児島・タクシー運転手刺殺事件が相次いで発生した。いずれも容疑者は10~20代。面識のない人を通り魔的に襲撃し「誰でもよかった」と供述している点も共通する。茨城、鹿児島両事件では、容疑者が調べの中で“死刑願望”を口にしている。連鎖するかのように次々と暴走する若者たち。彼らにいったい何があったのか。【河津啓介】
犯罪心理学に詳しい作田明・聖学院大客員教授は「いずれの容疑者も若くて単身で、家族との関係が希薄だった。最近は定職がなく生活が不安定な若者も多い。結婚、家族のつながりといった抑止力が効きかなくなっている」と指摘する。その上で、「今の日本は家族関係がいったん崩れるともろく、職場や地域のサポートもないに等しい」と、社会的支援の必要性を訴える。
進みつつある「格差社会」のひずみに着目するのは、尾木直樹・法政大教授(臨床教育学)。「3、4年前に恵まれた家庭の成績優秀な子供が、親を殺害する事件が相次いだ。最近は“勝ち組”ではない家庭のまじめな若者が、虚無感から自滅的な無差別殺人に走っているケースも多い」と話す。
尾木教授は「追いつめられた青少年を支えるものがない現代社会は非常に危険。地域コミュニティーの復活など、国レベルで手を打たなければならない」と注文を付ける。
若者による不可解な事件は、なぜ続くのだろうか。捜査幹部は現代の若者について「テレビゲームなどで空想の中の想像力だけが発達している」と指摘する。「人とのコミュニケーションが下手で、何ごとにも我慢ができない。共通しているのは仕事、カネでの行き詰まり。安易に、そのストレスを他人にぶつけるかのような事件が多い傾向がある」と分析する。
最近の主な事件(年齢は当時)
<3月23日・茨城事件> 無職の金川(真大、まさ、ひろ)容疑者(24)は「複数の人を殺せば死刑になると思った」供述。事件前にアルバイトを辞め、自宅に閉じこもりがちに。
<3月25日、4月14日・福岡事件> 福岡市早良区で78歳女性を刺殺したとして逮捕された無職、野地卓容疑者(22)が、同市城南区の女性刺傷事件の関与も認めた。野地容疑者は私立高校を約1カ月で退学。アルバイトは長続きせず多額の借金を抱えた。インターネットにも使っていた携帯電話の使用を止められ、自宅マンションで突然、奇声を発することもあった。
<3月25日・岡山事件> 大阪府大東市の少年(18)は「人を殺せば刑務所に行ける。誰でもよかった」と供述。少年は今春、高校を卒業したばかり。京大医学部を志望し、学校側から別の国立大への推薦を勧められたが、経済的理由で進学を断念したという。
<4月22日・鹿児島事件> 陸上自衛隊練馬駐屯地(東京)所属の1等陸士(19)は脱走の果てに、行き着いた(姶良、あい、ら)町でタクシー運転手の男性(58)をナイフで刺殺し「出会った女性と死について話すうちに死刑に興味を持ち、人を殺したくなった」と供述する。
2008年5月3日