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いま香川の暮らしは(2)医療

2007年07月19日

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坂出市立病院の産婦人科窓口。診療予定表に常勤医の名前はなかった=坂出市文京町1丁目で

 曜日ごとの外来診察の医師名を知らせる掲示板に「医大医師」のプレートがかかる。坂出市文京町1丁目にある同市立病院の産婦人科窓口。本来なら他科と同じく、具体的に個人の担当医師名を紹介するところだ。
 昨年6月末で常勤医師が退職し、年に約200件あった分娩(ぶん・べん)など産科診療を取りやめざるをえなくなった。今は香川大の医師に非常勤で週2回程度来てもらい、婦人科外来のみ続けている。
 体調を崩して同病院に入院した長男(2)に寄り添っていた市内の主婦辻日出未さん(22)は現在、妊娠3カ月。長女も長男もここで産んだが、3人目はほかの病院を探さないといけない。市内に別の産婦人科もある。だが、早産体質なので、いざというとき自宅から遠いと不安だ。「少子化の時代に頑張って産んでいるのに。どうしよう」
 県内の医師数は増えてはいるものの、産婦人科をはじめ、いくつかの診療科は減少傾向にある=表参照。新しい産婦人科の常勤医を探している砂川正彦院長(55)だが、「大学の医局にも、どこにも医師がいない」と話す。
 勤務医の仕事が年々激務になっているうえ、福島県の病院で昨年、帝王切開した女性を死亡させたとして産婦人科医が逮捕された影響も大きい、とみる。「一生懸命やっても逮捕される。飲酒運転で死亡事故を起こすよりも裁判で賠償額が多いこともあった。社会状況が医師には非常にマイナスに働いている」
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 県立中央病院(高松市番町5丁目)の救命救急センターは、救急患者の最後のとりでだ。年間約3100人(05年)が救急車で運ばれてくる。その救急専従医2人が退職し、今年4月からゼロに。今は麻酔科、外科などの医師5人がチームを組んで救命に当たる。
 センターで昨年3月、心肺停止患者の受け入れを拒否したことが問題になった。そのとき松本祐蔵院長(61)は、改善策として「センターの人員態勢を強化したい」とコメントした。でも現実は逆行している。
 大学の医局に派遣を再三かけ合ったが、補充のめどはたっていない。大学頼みではおぼつかないと、今秋にも今いる医師が救急専門医の資格をとることを検討している。松本院長は「若い救急医を病院自ら何とか育てていかないと、どうしようもない」と話す。
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 参院選を前に、政府は緊急医師確保策を打ち出した。その一つが国がプールした医師の派遣。ただ、第1陣の7人が派遣されたのは北海道、岩手など。「香川には来てもらえないでしょう」「そんなに(派遣の)医師を集められるのか」と県の担当者や医療関係者は冷ややかだ。
 医療費抑制の流れの中で医師数は簡単には増えそうにない。診療機能の分担・集約化を図ろうにも、既得権の調整は容易ではない。「県内医療がどうなるのか、もうギリギリの段階。県民のみなさんに医療の現状をもっと知ってほしい」(県立中央病院の松本院長)、「一人の医師の頑張り、一病院の努力ではどうにもならなくなっている」(坂出市立病院の砂川院長)。現場は悲痛な叫びを上げている。(東孝司)

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