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福島県立大野病院事件

弁護側は全面無罪を主張

福島県立大野病院事件最終弁論、判決は8月20日に

軸丸 靖子(2008-05-17 00:00)
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 2004年12月、福島県立大野病院の産婦人科で帝王切開手術を受けた女性が術中に死亡し、同院産婦人科医の加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法21条違反(異状死の届け出義務)に問われた事件は16日、最終弁論があった。弁護側は、「被告の行った医療行為に過失はなく、現在の医療水準に照らして妥当であった」として、加藤医師の全面無罪を主張した。

 前回の論告求刑で、検察は加藤被告に禁固1年、罰金10万円を求刑している。判決は8月20日に言い渡される。

法廷に向かう加藤被告(左)と弁護団のメンバーら=16日午前9時半、福島市の福島地裁前(撮影:軸丸靖子)
 事件は、加藤医師が帝王切開手術で女児を取り上げた後、胎盤を娩出しようとしたが癒着していてはがれず、クーパー(手術用はさみ)を使うなどして剥離させたが、大量出血が起こり、死亡させたというもの。

 事件後に県が作成した事故報告書では、加藤医師に過失があったことを認めていた。だがその後、報告書を元に警察や検察が始めた捜査では、同医師は過失を否定し、争いになった。

 医療現場では、被害者への賠償や再発防止の観点から、事故調査では積極的に反省点を認める傾向がある。だが、刑事裁判で同じことをすれば、医療者は犯罪者になってしまう。このため、同事件には、「医師として全力を尽くしても、結果が悪ければ刑事責任を負わされるのか」と医療界全体が猛反発した。

 同時に、「医師1人で診療科を担当させるのは危険」と大学病院が1人医長を引き上げたため地域に唯一の産婦人科が閉鎖されたり、患者が高次機能病院に集中するケースが続出。折からの産婦人科医師不足に加え、医師の“委縮診療”を促した事件として、全国的な注目を浴びている。

 2007年1月に始まった公判の争点は、

(1)胎盤が癒着していた部位、程度、加藤医師の認識

(2)出血した部位、程度

(3)大量出血の予見可能性

(4)死因と加藤医師の行った医療行為との因果関係

(5)加藤医師が行った医療処置の妥当性、結果回避義務(胎盤はく離を中止し子宮を摘出すべきだった)の有無

(6)医師法違反と(7)その任意性

――の7点。最終弁論で弁護側は、

 「検察官は、患者の死亡という事実の重大性のみを見て、死亡にいたる過程を医学的見地から検討することなく、単に加藤医師が行った剥離行為と大量出血とを結びつけた。剥離を行ったのが被告人であるという1点だけで被告人の過失を主張しているに過ぎない」

とし、上記7点に沿って、検察の論告内容に1つひとつ反証した。

「検察の主張は実態のないフィクション」

 癒着胎盤の状態については、検察側の鑑定人は腫瘍病理の専門家であり、周産期の経験はなく、鑑定にあたって胎盤そのものの観察やカルテの参照も行っていないことを指摘。

 「鑑定人は『帝王切開時に胎盤が切られたことがわかる』などの証言をしているが、実際は胎盤に切られた跡はなく、明らかな間違いを犯している」

などと、同鑑定の信ぴょう性は低いと断定した。

 また、検察の「胎盤はく離中に次々とわきあがるような出血があった」とする検察の主張については、

 「麻酔記録上、胎盤剥離中10分あまりの間の出血は、羊水を除いて555mLしかない。5000mLの出血という検察の主張は実態のないフィクションと言わざるをえない」

と非難。看護師の供述も、加藤医師自身の術後記録も、事実関係からおかしなところがあり、信頼性に乏しいとした。

福島地裁=5月16日(撮影:軸丸靖子)
 さらに、検察が「胎盤剥離を始めてから癒着が分かった場合は、ただちに剥離を中止し、子宮摘出に移る」のが教科書にも書かれている正しい医療行為であるのに、加藤医師は怠ったと主張していることについては、

 「教科書にも文献にもそんな記載はどこにもない」と反論。

 「癒着胎盤と分かっていたり、まったく剥離ができない場合であれば子宮摘出が妥当だが、途中で剥離をやめて子宮を摘出するという事例は、(弁護側の複数の証人および検察側証人に聞く限り)1例もない」

 「出血している場合でも、胎盤を剥離すれば子宮が収縮し自然な止血作用が働く。それを期待して『いったん剥離を始めたら完遂する』というのが、日本の医療水準にかなった判断。ほかの証人も、『わたしが加藤医師でも同じことをする』と証言している」

と強調し、加藤医師に過失はなかったことを訴えた。

  ◇

 弁論終了後は、加藤医師から最後の意見陳述があった。

 これまで同様、

 「亡くなった女性には、信頼して受診していただいたのに、お亡くなりになるという結果になり、本当に申し訳なく思っている。もっといいやり方があったのではと考えているが、今も思い浮かばないでいる」

と、まず女性と遺族への謝罪と冥福、を口にした加藤医師。

 「できる限りのことを精一杯やったが、悪い結果になり、医師として非常に悔しい思いをしている」

と悔恨を述べたあと、

 「私は、真摯な思いで産科医療の現場にいた。もし再び医師として働かせていただけるのであれば、再び地域医療の一端を担いたいと思う」

と短く結んだ。

 女性の死亡から4年半。これまで14回、毎回6~8時間に及んだ公判はこの日、全審理終了の節目を迎えた。最初から傍聴してきた女性の遺族らは、公判終了後、周りが退室してからも、しばらく傍聴席に座ったままだった。


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