ホーム > きょうの社説


2008年5月17日

◎金沢城の史跡指定 辰巳櫓の復元構想急ぎたい

 金沢城跡の国史跡指定を機に、ぜひ具体化させたいのが辰巳櫓(たつみやぐら)の復元 構想である。金沢が城下町資産群で世界遺産登録運動を進めながら、その中心となるべき城が史跡になっていないという画竜点睛を欠く状況はようやく解消されることになるが、史跡指定はあくまで通過点である。

 金沢城を名実ともにこの地域のランドマークとし、県民、市民の心の拠り所にするため には、城の価値をさらに高める必要がある。辰巳櫓の復元は、それにふさわしい夢のあるプランといえよう。

 金沢城跡は長らく金大キャンパスとして使われ、一九九五年の金大角間移転後に国から 県の所有となり、一般開放された。菱櫓、五十間長屋の復元、石垣回廊の整備などに続き、現在は河北門の復元が進んでいる。平成の築城はまだ道半ばであり、史跡指定を機に、どんな城を目指すのか、明確な方向性を定める時期にきている。

 金沢城の南東(辰巳)に位置した辰巳櫓は、高さ二十七メートルの石垣上に十四メート ルの櫓があったとされる。一七五九年の宝暦の大火で焼失したが、絵図などが残り、復元は十分可能である。市街地から眺めることができ、実現すれば金沢が城下町であることが一目瞭然で分かるだろう。金沢経済同友会は辰巳櫓復元で基金が設置されれば、積極的に協力する姿勢を示しており、こうした民間の後押しも心強い。

 国特別史跡の熊本城では、築城四百年記念事業の目玉として本丸御殿が復元され、先月 に一般公開された。大型連休中は約二十七万人を集め、熊本県内一番のにぎわいとなった。一連の城郭建築物の復元では、総事業費約九十億円のうち、「一口城主」として募った寄付が十二億円に上る。県民、市民、出身者らの城への愛着の深さを物語る。

 金沢城でも、スケールの大きな形で県民の関心を引き寄せ、愛着を高める新たな夢がほ しい。地域を特徴付ける目印というだけでなく、そこに暮らす人々の誇りや愛着を促してこそ本当の意味のランドマークといえるのではないか。北陸新幹線開業へ向けた平成の城下町づくりも、鍵を握るのは城づくりにある。

◎看護・介護に外国人 受け入れ側も試される

 インドネシアとの経済連携協定が今国会で承認され、同国からの看護師と介護士の受け 入れが実現することになった。人手不足が深刻な日本の看護・介護現場の将来を左右する画期的な取り組みであり、ぜひ成功させたい。日本語による国家試験に合格して定着する人が果たして何人いるか未知数な面もあるが、外国人労働者を受け入れる日本の医療機関や介護施設関係者らも成否の鍵を握っている。

 受け入れ側にもし、人手不足を補う安価な労働力といった認識があるとすれば、日本の 看護・介護職は外国人にそっぽを向かれてしまうだろう。待遇面などで差別することがあってはならない。

 インドネシアからの受け入れ枠は二年間で看護師四百人、介護士六百人となっている。 それぞれの候補者は半年間、日本語研修を受け、施設で働きながら三―四年間で看護師、介護福祉士の国家資格をめざす。試験に合格できないと帰国しなければならない。厳しい条件をクリアするには相当の努力が必要であり、受け入れ施設のバックアップも求められる。

 日本看護協会など国内の関係団体は、外国人労働者への門戸開放に反対の立場だ。育児 などで離職した潜在資格者が多数おり、本来日本人だけで対応可能というのである。しかし、国の需給見通しでは看護職員の大幅不足が見込まれ、介護の人材難も切実である。少子高齢社会を維持する上で外国人労働者の受け入れは時代の要請といえるのではないか。

 反対意見の中には、外国人労働者が入ると日本人の給与水準が下がると心配する声もあ るが、もしそうなれば看護・介護の人材不足は深刻になるばかりである。逆に外国人労働者の受け入れを、看護師と介護士の経済的・社会的地位の向上や技術のレベルアップにつなげることが重要である。

 きつい仕事は外国人労働者に任せようなどという風潮が社会に広がり、看護・介護職を めざす日本の若者が減ることになれば本末転倒といわなければならない。国や自治体はそうしたことにならないよう留意してもらいたい。


ホームへ